建築物の環境、防災、安全、倫理の関わり

著者: 山崎 洋右 講演者: 小山 哲史  /  講演日: 2006年05月09日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2012年08月17日

 

環境研究会【第31回特別講演会報告】  060509

日 時:平成18年5月9日(火)

 

テーマ:建築物の環境、防災、安全、倫理の関わり

講 師:小山哲史氏 株式会社小山建築工房代表取締役、一級建築士、宝塚市会議員

 

1.はじめに

宝塚市長の逮捕、神戸市会議員も2名逮捕された。日本では首長や議員の汚職による逮捕が後を絶たない。姉歯元一級建築士の強度偽造問題では建築士の信用失墜を招いた。いずれにせよ、職業倫理の欠如による事件が後をたたない。

今回の強度偽造問題の責任の所在について、マンションの購入に関して、戸建住宅のような感覚での「自己の責任」では、「誰かが責任を取るものという思考」から抜け出せない。行政が責任を取りえないにかかわらず、そのことが知らしめられていない。行政制度として機能させていない「建築士」等が責任を果たすかの様な「状況」を、行政自体がつくりあげてきたのではないか。
姉歯氏は「試みにデータを操作する」と言う違法行為を行った。しかし、誰もチェックできず、それを止める者がいなかった。

2.日本の都市の現状

近代都市としての骨格を持たないままに、平面的な低層木造建築物を前提とした街区や敷地割を基礎としている日本の都市の現状から、都市の安全性を主眼にすれば、本格的な再開発が全面的に行われなければならない。ひとつの事業でも膨大な資金が必要な為に、巨額の補助金が必要になる。 阪神大震災後のように全面的にということになれば、地権者の課題も含めて、行政作業が不可能な課題(権利変換作業)となるだろう。

他方、そのことで再開発の必要性を切実に国民に意識させない作用をもたらした。木造都市、低層戸建都市の性格から、各個人の努力によって自己の建物のみを、周囲の建物や公共施設と無関係に建て替えることができ、その点での快適な環境が確保できることになっている。 都市住宅としての矛盾を引き起こしながら、政府もその問題点、責任の所在に対応していない。

その結果、都市における「建築不自由」の思想 (個人としては極めて多くの問題点をはらんでいるから自己決定できない)への変換が進まないのではないか。単体開発では機能しないものであり、広域地域の問題としての再開発として取り組まなければという機運も盛り上がらない。

マンション建設問題は、周辺住民からの居住権・財産権の問題提起のみであって、 「環境問題」と発言するが、都市の課題としての、全体的・長期的・合理的な都市生活環境課題とは理解しようとしない。現状維持の思想では本質的な課題解決には進まないだろう。 マンションが建設され、そこに住む住民の立場(安全性・経済性・快適性)を理解した上での発言が出てこない。

一定の制約と共同化なしには、都市生活の安全で快適な市街地環境を実現し得ない。都市開発の面からは、平面的過密利用の現状から、余裕ある立体的利用へと転換しなければならない。そうすれば細街路が要らなくなる。自動車の通行に耐えうる幅員の道路が確保される。防災時、救急時の対応策が確保され、都市の効率を拡大しうる。

3.海外の都市計画

先進国はイギリス、アメリカであり、スラムクリアランスをおこなって都市の一部をより良く改造していくことを指していた。市街地をクリアランスして合理的に使用することで、建築物が全体として悪化している地区、建築物、公共施設等の配置や計画・設計が悪く快適な都市生活や正常な経済活動が阻害されている地区を再構築させる。そこでは既存建築をすべて除却し、新たにその場所のニーズに応え得る建築物、公共施設、オープンスペース・公園・広場・緑地・道路等、を構築する。 しかし、この方式では、膨大な経費が必要になるので、部分的なクリアランスをおこなう方式を併用することになった。

4.日本の設計関係者の境遇と社会的な立場

日本建築家協会の旧設計監理報酬料率表に対して、1975年「独占禁止法に違反する疑いがあるのでこの表を使ってはいけない」との公正取引委員会の行政指導がなされた。この指導には、「守るべき相手」が違うという判断の誤りがあったのではないか。費用の目安としていたもの、守るべき社会的な利益は、力の強い発注者ではなく、「マンションの購入者」であるべきだった。

基本的に現在の「建築確認制度」に内在する欠陥として誰が責任を持つのか、設計事務所の事業主への従属化、独立性が維持されない「事業者優位」の背景がある。(公認会計士・監査制度と似たような問題点)
設計者は、社会に対しての発言権をなくし、自らの知恵と努力の代価を正等に主張するべき方向を失い、プライドもモラルもなくしてしまった。

5.今後の課題 

(1) 意識上は性善説を重視するべきといえども制度上・組織上は「性悪説」にたった対応が求められる。例えば入札制度の公正確保。法令順守(コンプライアンス)など。

(2)独禁法の重視「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」

(3)議会の「条例制定権」の活用「自ら法令策定に参画することによる、法令遵守の社会の構築」

(4)地方分権の推進議会の重要性(行政でなく)条例制定権、議会への市民参加

Q&A

Q1:今回の建築物の耐震偽装事件で一番悪いのは姉歯元一級建築士と言われているが、姉歯は氷山の一角である。行政の責任についてはどう思うか。

  ⇒ 本当の専門家の行政でないとわからない。30万人余りの一級建築士のうち、2500人位しか構造計算ができない。監督官庁の立場が不明確である。許可と確認との違いがある。許可は行政が責任を負う。

Q2:「赤信号、みんなで渡れば、怖くない」の典型である。鉄筋の話のみで、コンクリート等の話が出ない。ヒューザーの小嶋社長が国家賠償を行うと言っているが。

  ⇒ 裁判では、入口で当事者適格の問題があるので、それは無いと思う。(注:その後小嶋社長は逮捕された)

Q3:行政改革により民間委託しているので、行政に技術力が無い。民間に負けない技術力を付ける必要がある。コンサルタントは行政責任をいかに保つかが課題である。

⇒ 意匠専門の建築主事が多いなど同感である。行政も対応できない。一方で、人減らしはそれなりの必要性があった。

Q4:一番の行政改革は議員であると思うが。

   ⇒ 議会の改革が必要。極めて悪いのが実態である。市長と議会は機関対立主義。利権行動排除が必要。

Q5:建築確認の方法は。

 ⇒ よくわからない。かって国交省から宝塚市に担当部長が出向して来ていた。よく勉強されていたが、地下室マンションの件を考えると、中央では現場のことをあまり知りえないと思う。

Q6:旧建築基準法で建築された建物での強度の対応について。

 ⇒ 静岡では、学校等について補強を行っている。国は県に対して既存不適格建築物の見直しを要請している。

(小山 哲史氏 監修,山崎 洋右 記)


著者プロフィール 著者
> 
主な経歴
> 
資格
> 
その他
>