環境リスクマネジメントとEMS
★ 【環境研究会第42回特別講演会】 ★ 090226
日 時:平成21年2月26日(木)
テーマ:環境リスクマネジメントとEMS -環境不祥事の事例をもととして-
講 師:木口 明彦氏 早大卒。㈱山武OB。現在、東京城南環境カウンセラー会理事。
●プロフィール:早稲田大学理工学部電気科卒、㈱山武でモニタリングシステムの開発などを担当。また、環境管理を主管し、取引先のEMS導入を指導。現在、EA21地域事務局東京での業務を支援。武蔵工業大学の元非常勤講師などとして活躍。
1.リスク、環境リスク
リスクとは危険などに会う可能性などを意味する概念であり、環境リスクとは、環境の保全上の支障を生じさせるおそれをいい、人の健康や生態系に及ぼす可能性をさす。
2.日本の環境問題の経過と企業の対応
1960年代は産業型公害、1970年代後半から都市生活型公害を経て1990年代から地球環境問題がおこり、CSR(企業の社会的責任)という概念も登場。
そして2005年頃から環境不祥事、データの改ざん、環境偽装の問題などが頻発し、法令違反、などを通じて、企業への社会的不信、地域の事業活動への信頼性が低下したことを、13例の豊富な事例を基に紹介された。これらはデータの改ざん例が多く、罰金は少ないが、企業イメージを大きく低下させる。
3.なぜこのような問題が発生するのか
「環境管理に対する認識の不足」及び「体制・仕組上の問題」として分析する。
①環境管理に対する認識の問題
かっての公害対策中心の時期からの変化の中で、法令、協定違反に対する認識不足、自治体や地域住民とのコミュニケーション不足が顕在化してきた。
②体制・仕組上の問題
管理体制の不備とコンプライアンスプログラムの機能不全という問題がある。企業の環境レポートには重要性を書いてあるが、管理体制には問題があり、社内のコミュニケーション不足が露呈している。この他人材の教育・育成が挙げられるが、知識経験不足から適切でない対応に繋がる。また、有効な防備設備等にも問題がある。
4.不祥事に対する環境管理への取組
①体制の再構築:本社と工場現場とのコミュニケーションを改善する。
②本社と全社との環境管理:全社の問題であるとの認識を持ち、危機管理体制を整え、これが間違いなく実施できているかを検証する必要がある。
③従業員教育:コンプライアンス、ノウハウ、実務研修などの充実など
④利害関係者とのコミュニケーション:行政、地域、関係会社・取引先との関係改善
5.PDCAを回す取組
環境マネジメントシステム(EMS)が有効に機能するためにはモニタリング監査などを含め、環境管理の視点にたった実質的なPDCA(P:方針、計画、D:実施及び運用、C:チェック,監査、A:アクト、マネジメントレビュー)を回すことが必要である。
1)全社的環境コンプライアンスを進めるためには
①方針の明確化、②組織の構築、③予防的取組、④事後的取組、⑤関係者との連携が欠かせない。企業に求められるコンプライアンス体制とは、社会の要請に応えることである。コンプライアンスとは法令順守だけでなく「社会の構成員としての企業人・社会人として求められる価値観・倫理観によって誠実に実行することであり、それを通して公正かつ適切な経営を実現し市民社会との調和を図り、企業を創造的に発展させていくこと」である。環境改善目標を設定して体制の構築、影響の把握・評価を行い、公共の利益との調和と利益拡大を図っていく。
2)環境経営リスク
従来、EMSで取り扱ってきたのは公害、廃棄物、CO2に関する自然科学的な環境影響であり、環境コンプライアンスの不備に起因する企業の経営リスクは、EMSの範疇になかった。(社)日本電子工業会では、「これを企業がこうむる経営損失の危険性と定義し、環境リスクと経営リスクを区別すること」としている。
環境経営リスクの評価は、(影響の大きさ)×(発生の可能性)であり、これをマトリックス化した表で管理するとしている。例えば影響項目としては、①人への影響、②環境影響の範囲、③社内管理基準への影響、④法規制等違反、⑤マスコミ報道、⑥経済的損失、⑦経営への影響、⑧同業他社・事業分野への及ぶ影響の範囲であり、5段階で極大は16点としている。
6.おわりに
環境に真摯に向き合うことが必要である。そのためには、環境マネジメントシステム(EMS)を活用することであり、これにはEA21が含まれる。経営にどう向き合うかという要素も勿論重要である。
この講演は環境研究会の特別講演会であるが、同時にEA21地域事務局大阪技術振興協会の審査人力量向上研修をも兼ねて実施し、好評のうちに終了できた。
質疑応答
Q:環境経営リスクのまとめ方を示して説明しているが、危機管理対応(クライシスマネジメント)が抜けているのでは?
→そのとおりである。予防保全として取上げたが、起きてしまったことに対する後処理で企業価値、世間の評価を高めることもある。一方で、リスクを起こさないように行動するためには、EMSは重要なツールである。
Q:13事例を挙げて説明しているが、企業が悪いと書かれるが、代表者が知らない例もある。
→EMSをとっていても、これが機能していなかったといえる。審査はサンプリング方式であるが、起ったことに対しては、ほころびが見えるので、これを追求できる。
Q:食の偽装も同じであるが、「人間だから起きる」という前提で、経営者が真剣に考えるべき。
→そのとおり。人間の業である。企業として真摯に向き合うことが、経営者だけでなく従業員にも大きな影響を与えるので、良い風土を作るための教育は重要である。
Q:企業倫理の欠如、CSRの根幹は?
→いかに評価していくかEMS,QMSをツールとして上手く使って評価してほしい。
コメント
その他、活発な質疑があった。最後にEA21の判定委員として審査人のレベルのバラツキがあり、審査人を評価する場、審査人とコミュニケーションの場作りが必要とのコメントがあり、審査人をどのように育てるかなど本質的な課題の提示と意見交換で、締め括られた。
(監修:木口 明彦 作成 山本 泰三)