地球温暖化対策を取りまく最新の情報

著者: 山崎 洋右 講演者: 荒井 眞一、元田 智也  /  講演日: 2009年03月28日 /  カテゴリ: セミナー  /  更新日時: 2011年02月22日

 

 【環境特別セミナー報告】     090328 

近畿支部主催、環境研究会協力で「地球温暖化対策を取り巻く最新の動向」をテーマとして、セミナーを実施した。

日 時:平成21328日(土)

 

講演1低炭素社会と持続可能性に向けての取組み戦略 

-我が国と欧米の場合-

講演者 : 荒井 真一氏 S53環境庁(当時)入庁、環境保全対策課長等を経て
               現在、東京大学特任研究員

1.サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S

持続可能な発展のための研究(サステイナビリティ学)を行う5年間のプロジェクト。メンバーは東京大学が中心で京都大学、大阪大学を含む5大学、関西では立命館大学は協力機関となっている。気候変動対策をフラッグシッププロジェクトの一つとして位置づけており、温暖化研究のマッピング等を行っている。

2.地球温暖化の科学

(1)気候変動(地球温暖化)の影響(世界)

1979年~2000年迄の平均と比べて、2005年には北極の氷が20%減少。
②海面上昇が従来、2mm/年と言われていたのが、最近3㎜/年に増加が観測されている。
③温度上昇の影響は2℃を超えると水不足が深刻化。
④3℃を超えると食料でマイナス影響が出てくる。
⑤4℃を超えると世界の沿岸地域が3割減少。
⑥平均気温の上昇が2℃迄はメリットもあるが、5℃以上昇すると危険。
⑦7℃以上上昇すると人が住めなくなる地域が出てくる。

(2)気候変動(地球温暖化)の影響(日本)

①日本の真夏日や豪雨の増加より、日本における温暖化の影響は危険レベル。
②平均気温上昇は2℃以内なら米の収穫量は増えるが2.6℃を境に減少する。
③海面が1m上昇すると90%の砂浜が無くなる。
2℃上昇するとブナ域が5割に減少。
⑤4℃上昇すると日本のブナ域は絶滅。
⑥西日本では、2℃上昇すると高潮による浸水危険面積が1.4倍に上昇。

(3)温度上昇は℃位が許容限度と考えられる

 

3.IR3Sの温暖化関係の研究

気候変動対策をフラッグシッププロジェクトの一つとして位置づけており、温暖化研究のマッピング、アジア太平洋地域を中心とする持続可能な発展のためのバイオ燃料利用戦略に関する研究等を行っている。2月には、サステイナビリティ学に関する国際会議(ICSS2009)を開催し、研究ネットワーク同士のネットワーク(Network of Networks)の設立、拡充を図った。

4.温暖化対策

2012年以降の国際的な温暖化対策の枠組みの合意を目指して、12月にコペンハーゲンで第15回締約国会議が開催される。これに向けて、EU2020年までに90年比20%削減等各国が目標を設定、オバマ米国大統領も2020年までに90年レベルに削減することを公約。

○ 我が国は、以下の「美しい星50への誘い〔20075月 安部総理大臣(当時)が提唱した戦略,3つの柱〕」や前福田首相の福田ビジョン、それを基に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」を基に、長期目標を設定、現在中期目標を検討中。

(1)世界全体の排出量を現状に比して2050年までに半減。

(2) 2013年以降の温暖化対策の国際的な枠組みの構築に向けた3原則

①主要排出国が全て参加し、京都議定書を超え、世界全体での排出削減につながること
②各国の事情に配慮した柔軟かつ多様性のある枠組みとすること
③省エネなどの技術を活かし、環境保全と経済発展とを両立すること。

(3)京都議定書の目標達成を確実にするための国民運動展開。

○ IPCC第4次評価報告書(長期的展望)

2020年と2050年の対応を決めるに際し、CO2濃度とそれを達成するのに必要な削減量を検討しており、これを基礎に国際交渉が進められている。

(1)将来450ppmで安定化。(温度上昇2℃)
(2)
将来550ppmで安定化。(温度上昇3~4℃)
(3)
将来650ppmで安定化。(温度上昇4~6℃)

○ 京都議定書の達成

京都議定書の達成のためには、我が国は、森林吸収源対策、京都メカニズムを活用しても、さらに排出量を9.3%(2007年度速報値)削減する必要がある。このため、排出量取引制度の試行等が行なわれているところ。

5.大学の役割

小宮山前総長は、行動の構造化と社会変革のエンジンとしての大学の役割を強調した。3月に開催された、気候変動に関する科学会議でも講演し、強調した。同会議は、コペンハーゲン大学が中心となって開催したもので、2500人を超える科学者が集まり、最終日に温暖化対策の緊急性等を政策決定者にアピールするメッセージを出したところ。COP15では、これを踏まえて実効性のある中・長期目標が合意されるように期待する。

 

講演2:低炭素型社会に向けた取組み

京都メカニズムとカーボンオフセット

講演者:元田 智也氏 ()地球環境センター事業部調査担当主任

1.気候変動問題

二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガス(GHG)の大気中への放出増加による大気中濃度の上昇が、地球全体の気候系を乱し、平均気温上昇、海面上昇、降雨パターンの変化等により、人間社会に危機的な影響を及ぼすことが指摘されている。その主原因は、化石燃料依存型の今日の人間活動であると言われている

(1)気候変動に対する国際的取り組み体制
1988
年にIPCCが設立され、気候変動問題は科学的事項から政治的課題へと移行し、その後気候変動対策の国際条約の起草を経て、1992年の地球サミットにて「国連気候変動枠組条約」が署名に開かれた。

(2)国連気候変動枠組条約
条約の究極目的は、その第2条で「大気中GHG濃度を、人間社会に危険な影響を及ぼさないレベルで安定させること」と規定している。

(3)京都議定書
1997
年のCOP3(於 京都)において採択された。第1約束期間(20082012年)において、先進国全体で1990年(基準年)比-5%(日本は-6%)が義務付けられた。ただし米国は、京都議定書は未批准という課題が残されている。現在、2013年以降の次期約束期間での排出抑制義務について、国際交渉が行われている。

2.温暖化ビジネス

ほとんどの人間活動(産業活動含む)から、GHGは排出されているが、気候変動を緩和するためには、GHG排出量の削減が求められている。このGHG削減を行うには費用がかかるが、逆に言えばその費用を受け取る側が存在し、受け取る側にとっては利益となる。温暖化ビジネスとして新たなビジネスチャンスがあると言える。

3.国内排出量取引制度

200810月、排出量の国内統合市場の試行的実施が開始された。国内でもCO2に取引価格がつく契機となる。市場メカニズムを活用し、技術開発・削減努力を誘導することが目的。

①削減目標を自主的に設定する企業による目標の達成(排出枠やクレジットの取引の活用を認める)。 
②①で活用可能なクレジット(国内クレジット及び京都クレジット)の創出(国内クレジット制度)と取引。

4.カーボンオフセット

(1)定義
市民や企業など社会の構成員が、自らの削減努力によっても削減しきれない排出量について、他の場所で実現した温室効果ガス排出削減・吸収量等(=クレジット)の購入等により、その排出量の全部又は一部を自主的に埋め合わせること。

(2)カーボンオフセットの基本的な要素
①自らの行動に伴う温室効果ガス排出量の認識。
②市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等による排出削減努力の実施。
③上記①②によっても避けられない排出量の把握。
④上記③の排出量の全部又は一部に相当する量を他の場所における排出削減量・吸収量(クレジット)によって埋め合わせる。(オフセット)

(3)低炭素社会に向けた取組として

義務的な排出削減のみならず、カーボンオフセットという自主的な排出抑制活動を通して、低炭素社会に向け、市民や企業が地球温暖化に共に取り組む契機となる。その際には、クレジットの信頼度(真に排出削減に寄与したものかどうか)、第三者検証が重要となるが、日本ではJ-VERという国内オフセットクレジットの制度を立ち上げている。

Q&A

 Q:  ①1990(基準年)の妥当性。
②世界同時不況の影響。
③個人当たりのCO2削減を進める方途。

A:①日本は、もともと地球温暖化防止行動計画1990年 地球環境保全に関する関係閣僚会議決定)において、二酸化炭素排出量を2000年以降に90年レベルで安定化するとしていた。このため、基準年が90年ではおかしいという議論は当時ほとんど無かった。なお、基準年は政治的に決まってしまったため、1990年でなくてはならないという科学的根拠はない。

CO2排出量は減ると予想される。経済の異常事態で、今までとても達成困難といわれていた京都議定書の目標の-6%を達成してしまうかもしれない。しかしながら、排出構造を変えない限り、経済活動がもどれば、CO2が増えてしまう。このため、現在は省エネ等を進める低炭素化ビジネスのチャンスといえる。

③たとえば、ドイツでは、電力固定価格買い取り制度(FID)によって農場主が風力や太陽光で操業し、設ける仕組みが出来ており、再生可能エネルギーの導入が進んでいる。我が国も個人の努力に加えて、制度的に対応していくことが必要と考える。

 

Q:温暖化について懐疑論、陰謀説迄出ている。これに対しきちんと答えるべきだが、たとえばCO2排出量データは2007年実績迄しかなく、2008年実績は出てない。(米国では既に2008年実績が出ている。) また、世界の気温が100年で、0.74℃上昇している(IPCC)のに対し、日本は倍以上上昇している。これはヒートアイランド等を言う人がいるが本当か?又環境省と気象庁は連携して答えを出そうとしているのか?

A:環境省と気象庁は人事交流等もあり仲良くやっている。気温等の観測は気象庁の役割。政策的な見解を出す場合等は気象庁と環境省が一緒に、コミュニケーションをとってやっている。懐疑論については、まともに相手にしていないから、研究者、役所も反論をきちんと出していない。ホームページ上では、反論している専門家もおり、近く懐疑論に対する本も出版される。懐疑論者には、科学的な土俵にたって議論しようとしない人も多い。

 

Q:クレジットが出てはじめてビジネスの成果になる。クレジットが減ったり、価格が安くなったりするとビジネスとしては面白くなくなるのでは?

A:CDMでは、開発途上国に削減義務(いわゆる「キャップ」)が課されていないため、開発途上国で行うプロジェクトによる排出削減量に対応するクレジットの発行が厳しく審査される。結果として、クレジット発行量が抑えられることに繋がっていて、民間企業にとっては厳しいといわざるを得ない。開発途上国のキャップが無いと言う前提があるため、クレジット発行の仕組みを変えることはできないが、厳しすぎて民間投資を遠ざけることは避けるべきとの議論もある。

 

Q:技術士会としては、温暖化対策にどのように取り組んでいくべきと考えるか。

A:技術士が、温暖化問題や対策をまず理解した上で、直接行動することができればまずそれを行い、さらに、さまざまな機会を通じてクライアントの普及啓発や省エネ対策等のアドバイスの提供を行なうことが重要と考える。技術士会はそのような技術士の活動を誘導、支援していくことが重要ではないか。

      (監修 荒井眞一氏、元田智也氏 作成 山崎洋右)


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