関西を元気に! 高速道路網を考える

著者: 山本 泰三 講演者: 安ヵ川常高、山本 泰三、石塚 幹剛、槇村 久子  /  講演日: 2010年08月02日 /  カテゴリ: シンポジウム  /  更新日時: 2012年10月13日

 

シンポジウム関西を元気に 高速道路網を考える」 100802

日 時  20108.2日(月)
主 催  環境研究会 
共 催  近畿支部

1.あいさつ

(安ヵ川:環境研究会代表幹事)

5年前に中部地区の調査に行き、道路等の整備が進んでいるのを確認した。今日のシンポジウムでは結論は出ない。フジサンケイビジネスアイで半年間12回、技術士会(環境研究会)から情報発信することは、社会にアピールする場である。どのように発信するか意見が欲しい。

(福岡:近畿支部長)

環境研究会からの提案を受け、新聞からの情報発信は支部役員会に諮り、共催とした。参加者募集、結果報告なども必要になるが、本部や支部から補助を出すとか、認知度を上げるとかにつなげたい。当面は道路などインフラ中心の展開であるが、「関西を元気に」ということでは、工業、商業、イベントもある。また高速道路の整備でCO2が減るとか、色々な切り口での展開がある。

 

2.問題提起「関西の高速道路網を考える」

山本泰三技術士 (環境、総合技術監理)

専門ではないが興味があり、インターネットからの情報を分析した結果を報告する。

a)情報発信のツールの活用

日刊新聞への記事掲載、②整備中のホームページ「Technology PE-eco」、③特別講演会、シンポジウムでの発信など、議論の方向付け、より掘り下げた検討などを進める中で、社会に対して情報発信していく。

 b)高速道路網のあり方について(次の6つの構成で具体例を述べる

① 関西の高速道路網の問題点

道路には都市間高速道路(NEXCO西日本㈱担当)と都市内高速道路(阪神高速道路㈱などが担当)がある。ぱっと見ただけでは道路の総延長も長くインフラとして整っているように見える。しかし都市圏地域全体でどのようにできているのか、渋滞などの問題解消のためにどういう計画になっているのかが不明確である。

② 高速道路の効果とその事例

 中部地区のホームページをみると、交通渋滞の減少、沿道環境の改善、所要時間の短縮とアクセス性の向上、交通事故など安全性の向上、地域産業の活性化など、その効果が具体的に記されている。

③ 中部地区での高速道路網

中部地区での高速道路網は、名古屋市内を含めほぼ整備が終わり、着工中のものも10年以内に完成する。また、中国では、年間4600kmもの高速道路の整備が続いている。

④ 関西の高速道路整備計画の問題点

 全体計画がないし、何時できるのか、どの程度効果があるのか、どれくらい費用がかかるのか、都市間道路と都市内道路の接続と役割などがよく見えてこない。「コンクリートから人へ」の政策変更の中で、より一層の明確化が求められている。

⑤ データに基づく戦略的な取組みの提案

新名神の一部開通(2008年)、2010年の第2京阪の開通で利便性が向上した一方で、名神高速道路の渋滞が進行していることが分かる。例えば、新名神計画のうち高槻、大津間35kmは、計画が凍結されたままであるが、データを見直し(分析)して地域のコンセンサスを構築し、国に働きかける必要がある。

⑥ 問題意識の共有と連携

 今後、交通の流れの改善が必要としても、自動車台数が増加しないことを前提に、イ)問題の見える化を図り、ロ)建設にあたってのコストダウンと工期短縮対策を検討した上で、ハ)対策への意識と具体策の共有化・提言を図らなければ、国内だけでなく、国際的にも取り残されてしまう。

 

3.「関西高速道路網の現状」など  

石塚幹剛技術士(建設)(阪神高速道路㈱OB

a)阪神高速道路は地方道

阪神高速道路は地方道(国道ではない)であり、計画に当たっては都市計画決定が必要になるので、建設計画に時間がかかることになる。

b)関西の道路整備のマスタープラン

東京圏は「首都高速道路整備計画」が法律になっており、東京都の強いリーダーシップで全体計画になる。中部圏は愛知県と名古屋市が調整すれば全体計画になる。

関西圏の整備計画は、各自治体の計画を国が集約した路線計画はあるが、ロードマップを示したものではない。(個性の強い大都市間での調整が進まず、法制化されていない。)

今までは、計画・建設を国や(地方)行政に頼っていた。例えば、京都は長い間、高速道路を入れないとしていた。今後は、理念と市民主体の行動を国や行政が支援する形が望ましい。

関西にはエネルギーの効率的な利用や自然エネルギーの開発技術等のストックがある。都市内地域間の道路を整備する必要がある。

阪神高速道路は、イ)情報発信不足、ロ)国や行政に頼りすぎ。結果として10年、20年かかっている。借金に頼る高速道路整備は10年間が限度。民営化による効果が発揮されていない。

大阪工大の村橋先生のコンセプトとして、理念があり、うまく連環することで質のよい公共サービスが得られるとあるが、市民主体の地域活性化モデルづくりの場が必要である。

c)高速道路網整備が進んでいない

都市間高速道路(高速国道)NEXCO西日本など)には国の金が出る。しかし、大津―高槻間はB/C(費用対便益:Benefit/Cost)は高いが、他の路線の計画も重なり計画が凍結された。理由は関西の美徳か無関心かであろう。大阪都市環状道路についてミッシングリンクが、「五路線、120km」に及んでいる。これからは金の出し方も工夫が必要である。

道路の運営管理について、建設は民間に任せ、管理を高速道路会社が行うことになってもよい。
 ・ 京都の高速道路は3万台/日の計画が、実際には9000/日程度であった。
 ・ 大和川線は工事が進んでいるが、全部地下道になり、線形も厳しく利用しにくい面がある。

工事中の淀川左岸線は正連寺川(此花区)の水処理のための仮設工事に15年かかった。今後、計画が検討されている延伸部は都市計画決定がまだで今後10年かかっても実現時期が見えない。

神戸のベイエリア部についても中心部(六甲ISから垂水JC)が抜けている。阪神高速は現在乗継が多いのはネットワークになっていないことの象徴である。

阪神高速道路の建設が地域整備に果たした役割は大きい、堺線でも環状線でも都市整備と一体的に進めてきた。名神高速道路の西宮での湾岸線への延伸(4km)は1995年の大震災で遅れてしまった。一方、信濃橋での渡り線の計画はできると有効である。

d)中国の高速道路建設

中国は元気がよい。仕組みもよく出来ている。国が半分、地元が半分出資することになっているが、実質は地元の負担が小さい。2005年スタートの計画では総延長85000km(内半分が新規計画)で、全国の20万人以上の600都市のうち、半分は高速道路でつながる。

外国の技術と資金を導入して推進している。債券を発行している。同様のことを日本も15年前に考えたができなかった。

建設費は1015億円/kmであるが、日本では20倍もかかる。一方で課題も多く、都市整備はこれからの取組みになる。渋滞と料金制度(無料化、課金など)を工夫している。

道路の柱は細い。遮音壁も貧弱である。大型トラックが余り通らないからよいのであろう。

 

4.パネルディスカッション  

コーディネーター:安ヵ川常孝技術士

a)パネラーとして

槇村久子技術士(建設、環境、総合技術監理)、京都女子大学現代社会学部教授

道路の環境アセスメントについて、自治体や国の委員会に出ていたし、地方整備局の評価委員会にも(委員として)出ていた。

委員としては与えられた資料に基づいて判断することになる。情報の内容量についてはこのような問題提起がなければ判断に限界がある。

都市間高速、都市内高速道路について(問題提起であった草津を中心とした)地図の見方は面白い。生活、物流など見方を変えると異なって見える。空港についても国際的な流れを見る必要がある。かつて舞鶴を中心とした昔の地図で、世界が違って見えた。草津から名古屋へのルート(新名神)が出来、地元の物流業者は流れが変わると前から言っていた。

多角的にみること。地図のように見方を変えると、あらゆることに見方が変わるし、道路も同じである。

石塚さんが生活者の視点でと述べた。何のための道路か方法論ばかりでマスタープランがない。

例えば、関西の中心都市部の道路は整備されていないなど理解できたが、検討対象として地図には四国がない。例えば、徳島の脇町は町並みがよい。高速道路料金が1000円になり、観光対象になった。物流と観光という視点もあり、少し違って見える。生活の場面は見えにくい。

 

参加者とのQ&A

(Q)  鉄道の整備についても取り上げることを提案したい。JRと地下鉄などの接続は、線路幅など、規格がバラバラで対応できない。阪神と近鉄が難波で接続して流れがよくなった。

(安ヵ川) 鉄道の歴史は長い。検討のためには前捌きが必要になる。港湾、空港も検討対象になる。

(福岡)道路は未整備であっても、新名神についてこれ以上いらないとの議論が先行し、
しっかりした議論がなかった。本当にもう道路は不要かもっと多方面から議論してほしい。

土地収用法など私的権利を制限する法律がある。この法律を有効に活用すべきである。用地取得の遅れで工期が遅れ、金利負担が大きくなり、工事費が増加する原因となる。

 

(Q)  広域のネットワークの整備について、外に目を向けてもらう必要がある。鉄道、港湾、空港との関係で道路整備が重要になる。アジアの窓口は関西であるというスタンスで発信がいる。

(安ヵ川)金がない中で、社会資本の整備について工夫が必要になる。例えば「観光」を資源と捉えた戦略の中で道路網の整備が考えられる。

(Q)  海外の港湾の建設に携わってきた。関西の道路は標識にしても中部や中国と比べて分かりにくい。シンガポールで仕事をしたが、標識は分かりやすく明快であった。例えば、鉄道で神戸から京都や奈良に行くのも、大阪駅での標識も分かりにくい。外国から来たら苦労する。

(Q)  共通のテーマである「関西を元気に」について、下記の補充説明をして欲しい。
山本に:①問題の見える化が必要。②技術士会の役割がある。
石塚に:マスタープランがないというのは、行政に頼りすぎたためか。

(山本)近畿地方整備局に挨拶に行った。行動しだすと周りが少しずつ共鳴してくる。

(石塚)整備計画はある。旧近畿地方建設局が中心になって検討はしていた。しかし、地方負担が必要であり、優先順位を決める作業が出来ていない。首都圏には法律がある。関西は優先順位も計画もどんどん変わっている。

(槇村)計画には委員として色々参加している。必要性の話でも、自治体の計画の積み上げ、モザイク状態で発言しにくいし、発言しない。

 

(Q)  お金を出すのは地元であり、バラバラでは政治力が勝る。民の声を反映させたい。NTTJRは民営化によって計画が進んでいる。

(Q)  道路公団の民営化が正しかったのかは疑問がある。道路や河川はインフラ中のインフラである。かつて猪瀬さん(現東京都副知事)が動き、当時の小泉首相の力を借りて民営化した。郵政も道路公団とは少し違う。

(石塚)鉄道(国鉄)は借金を棚上げにし、これを整備機構が引き受けた。道路は借金がそのまま残り、機構(日本高速道路保有・債務返済機構)が監視役になっている。

 

(安ヵ川)今日の議論は有意義であった。85()から新聞を通じて半年間12回の情報発信を行う。今日の議論を基に一般に提言していく。

以上


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