関西の都市インフラと、エネルギー・環境問題へのイノベーション

著者: 山本 泰三 講演者: 鈴木 胖、  矢倉 健三、長尾 健吉、寺川 博也  /  講演日: 2010年09月16日 /  カテゴリ: シンポジウム  /  更新日時: 2012年10月13日

 

【地域活性化シンポジウム報告】  100916

日 時  平成22916日(木)14001700
主 催  近畿支部、後援:フジサンケイビジネスアイ、協力:環境研究会
場 所  アーバネックス備後町ビル3Fホール

 

テーマ 関西の都市インフラとエネルギー・環境問題のイノベーション

 

1.あいさつ

福岡 悟  近畿支部支部長
両金 史素 フジサンケイビジネスアイ(日本工業新聞社)大阪代表代行

関西地域のシンクタンクを目指し、関西地域の活性化に向けた情報発信の取り組みは困難を伴うが意義がある。日本工業新聞社は大阪の新聞王といわれた前田久吉氏が作ったもので、その後、産経新聞ができた。

 

2.基調講演 エネルギー・環境問題の現状と課題

鈴木  財団法人 地球環境戦略研究所関西研究センター 所長

18世紀までの世界は人間活動と地球上の水及び炭素の循環システムは、持続可能な状態であった。産業革命以後、人類は化石燃料を使用し、蒸気機関を発明、利用することで、この自然循環システムとは別の人工システムを構築し発展してきた。この結果、世界の年平均気温の上昇率は加速し、気候変化を起こす長期滞留温室効果ガス濃度(CO2の他CH4N2Oを含む)はすでに455ppmとなり、地球平均放射強制力はトータルで1.6W/m2に達し、95%の確率で温暖化しているといえる。

人口が20%を占める先進国が排出量の半分を占めている。今後は中国、インド、中東を含む途上国の排出増を勘案しつつ、温度上昇を2℃以内にとどめるための450ppm安定シナリオを達成するために「第2の産業革命が必要」である。

持続可能な社会の実現に向けて、①太陽光、風力、バイオマス、②原子力、③CCSCO2の回収、隔離)への取り組みが必須であり、省エネだけでは基本的な解決にならない。再生可能エネルギーはコスト面で、例外的な条件のところでないと化石燃料と対等に競争できない。高い利用目標を設定し、政策を導入しての対策推進が必須である。
海上での浮体型の風力発電計画や、ガス田におけるCO2回収、貯留のなどの取り組み構想など、最新のデータをもとに、明快に方向付けた内容が紹介された。

 

3.パネルディスカッション (コーディネーターは鈴木胖氏:上記)

a)宅配便による戸口から戸口までの配送システムを実現したヤマト運輸

矢倉 健三 ヤマト運輸株式会社 関西支社 マネージャー

宅配便を1976年に開発し365日定時運行しているシステムについて発表された。大阪には高速道路のIC付近に3つのターミナル基地があり、ボックスコンテナーを使って全国との間で幹線輸送を行っている。ターミナルの数は荷扱い量との関係で決定する。大阪の都市域内では300ヵ所に及ぶ集配センターとの間に定時運送を行っている。ここでは一般道路の利用が多く、陸の孤島と呼ばれる地域もあり、定時集配システムを維持するのに工夫を凝らしている。

センターから取扱店、お客様の戸口までの配送には全国で45000台の集配車を使用しているが、交通量の多い地域などでは、バス停方式や自転車、台車の活用などを取り入れ、CO削減の観点からも、年5000台の削減を目指している。なお、12月になると例月の3倍近く、全国で1000万個/日を集配し、自動仕分けして、夜9時に全国へ配送する。運送業者の高速道路利用について、一般に深夜は一般道路が使いやすいので、有料の高速道路を利用する事業者は相当少なくなるとのことで、道路インフラ整備には利用者の視点が欠かせないことを痛感した。

 

b)経済地理学の観点からみた「関西経済の展望と社会資本整備」

長尾 健吉 大阪市立大学経済学部 教授

経済活動には「空間性」と「時間性」があり、建物も土地の利用供給もこれらの制約を受ける。「建造環境」はインフラに囲まれており、すぐには変えられないし、歴史や政治経済のプロセスも絡んでいる。

関西経済を見ると、古くからの核心地であるが、戦後一貫して相対的に衰退した。三大都市圏のGDPを図1に示す。しかし、GDPの規模はメキシコ、韓国とカナダの間に位置するほど大きい。関西の経済はわが国の「6分の1経済」で産業構造のバランスもよいが、企業本社の空洞化、製造業の空洞化が続いてきた。

1 三大都市圏のGDPの推移
長尾謙吉教授のデータより作図

 

金融活動については、ロンドンなどに集中しておりわが国では商社、広告業などの専門サービス行などが中心となり、東京一極集中が続いている。
関西経済を展望すると、①集積の経済はある。②他組織、外部との連携が重要、③口うるさい消費者に鍛えられた商品やサービスを生む土壌がある。

社会的資本について、道路や港湾などの整備には、資本の第二次循環が必要である。交通体系について、高速道路の場合はさまざまな利用可能性があり、重要である。関西という空間の特徴は京阪神大都市圏が中核の都市圏構造であり、人とモノの連関を視野に入れて、社会資本の整備には時間とカネがかかることを認識する必要がある。関西では、ベイエリアで注目される産業も、広域の関西というスケールで優位性を保持している。
関西をひとつとして発展させるためには、基礎自治体と広域行政とが役割分担をし、社会資本整備については広域行政として担う必要がある。

 

c)阪神港の国際コンテナ戦略港湾指定をどう考えるか

寺川 博也 技術士(建設部門)、APECエンジニア

8月に阪神港が京浜港とともに国際コンテナ戦略港湾に国から指定されたが、港湾の技術士の立場からどう評価すべきかを発表された。
競合するアジア主要港湾のコンテナ取扱い個数について、30年前、神戸港は香港とともに世界のトップクラスであったが、現在はシンガポール、上海、釜山などが世界のトップで、日本の港湾は足元にも及ばない。サービスを提供し、収益を確保するために、アジア主要港は必死の努力、改善をしてきた。現在、わが国は主要5港をあわせても、これらの競争相手に太刀打ちできない。例えばシンガポール港は3岸壁に12基のクレーンが並び、大阪港に比べ荷役時間が半分で済む。また、日本の港の収益性、効率性は相当に劣っているとのデータが示された。

国際コンテナを扱う船会社は、日本郵船、川崎汽船を含め、全てメガキャリアーに再編された。これらに対するサービス、インセンティブの提供という観点からの取り組みが見えない。さらに阪神港といっても現状は港湾管理者が6つあり、プサンやシンガポールの1社に比べて効率があがらない。シンガポールでは港湾手続きシステムの導入で、サービスの向上とともに2000億円ものコスト削減を実現した。これらの長年の国際港湾の努力、ノウハウの蓄積を考えると、阪神港の前途は決して明るくはない。

 

d)ディスカッション

以上、3名のパネリストの問題提起を受けて、1時間の活発なディスカッションを行った。世界を見据え、技術士集団が地域のシンクタンクを目指す取り組みのために何をすべきか議論を深めた。例えば、シンガポール港や釜山港は中継貨物を取り扱う収益マシーンとして活動しているのに、わが国ではそれができていない。行政組織にしても日本は都道府県の数が多すぎて広域行政がうまく機能していない。運用の仕方などを工夫して改善につなげる必要がある。

今後議論の詳細は、ホームページ「Technology PE-eco」でも紹介していくが、技術士は一歩踏み込んだ活動を期待され、また、活動できるとの自覚を持って臨みたい。 

 (文責:山本泰三)


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