技術革新のダイナミズムと産業展開

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 弘岡 正明  /  講演日: 2005年04月22日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2010年11月18日

 

化学部会(20054月度)講演会報告

  時 : 2005422日(金)

 

講演 技術革新のダイナミズムと産業展開

弘岡 正明  博士(工学・経済学) 有限会社 テクノ経済研究所 代表取締役
(元 住友化学勤務、神戸大学教授、流通科学大学副学長)

はじめに

製品の普及について考えてみると、導入期、急速に普及する発展期を経て、いずれは成熟する。科学技術も同様で約30年のスパンで成熟していく。
技術・新製品開発・市場形成の3つ要因について発展の状況を、ロジスティック式(後述)を応用してグラフ化(横軸:時間、縦軸:発展状態)すると、それぞれが相関性のある軌道に乗って発展していく事がわかる。このグラフを活用して、現在発展中の科学技術をプロットすることにより、将来の工業化のタイミングを予測できる事がわかった。
また、新事業の展開をロジスティック式で検証した結果、ベンチャービジネスはグラフ波動の特定の時期に成功期があり、遅すぎても早すぎても成功しないという事実も立証できた。

新事業の展開は次の3つのカテゴリーに分けられるが本検証法はいずれにも利用できる。
①技術革新事業 : 系統的であり、技術発展の軌道解析で全容がつかめる。
②ニッチ型事業 : あたれば大きいがリスクも大きい。ニーズ持続性の判定が必要。
③エコビジネス : 技術革新のような付加価値は無いがこれから重要性を増す分野。

また、事業展開でのコストパフォーマンス面から見ると、次の二つに分類できるが、本検証法で分析するとパターンは同様である。

①技術革新型-規模の経済性(技術の進歩と共にコストの低減がすすむ。)
②付加価値向上型-発展と共にコストも上がる。(付加価値増がビジネスチャンス)

ロジスティック式と、科学技術発達への応用性検証

技術の発達と製品普及の解析に、Z.Grillichesのロジスティック式(1957)を応用する。
dy/dt = ay(y0-y)   (1)

変換して(2)式とすると、直線関係が成立する。(Fischer/Flyプロット)
ln(F/1-F) = at - b  (2)
F = y/y0
 (3)

   図1(縦軸 :F、横軸 :時間)

科学技術の発達に関してロジスティック式の適用が可能ということを示す例(合成染料の開発)を、図2に示す。

図2 合成染料開発数 (注:右側の図の縦軸はF/1-F

 技術軌道の同定とロジスティック曲線の作成手順

本解析法で、技術革新の発達の程度を定量化するための手順を、半導体開発における技術軌道を例として示す。(図3)

1) 一連の発明・発見を群として、データを収集する。
2)
発明・発見年の分布の時間幅を求める。
3)
最初の発明・発見をF=0.1、最後をF=0.9として、そのタイムスパン(τ年:例の場合25)を持つロジスティック式を描く。
4)
ロジスティック曲線上にそれぞれの発明・発見をプロットして、技術軌道を完成させる。

  (図3)

技術革新パラダイムの作製

技術軌道に続いて開発軌道を作製する。開発軌道は、例えば特許数の累積値を縦軸にし、横軸は時間軸としてプロットする。
普及軌道は、売上量や金額などを縦軸としてプロットする。
結論として、図4に示すような3本の軌道を持つ技術革新パラダイムが得られる。
このパラダイムは恐慌や、バブルなど経済要因による乱れを受けるが、大きく見ると、多くの製品で共通している。

(図4)

図4のパラダイムを構成する3つの軌道の関係は次の通り。
技術軌道:基本発明から一連のコア技術開発(主として大学の基礎研究)
開発軌道:新製品の開発(大学から企業への技術移転、前半でベンチャー起業)
普及軌道:市場の形成

種々の例を調べてみると、共通した次の傾向が認められる。
・技術軌道が成熟して、はじめて製品が普及し始める。(カスケード接続が見られる)
・開発軌道は、普及軌道の1015年手前にある。
・ベンチャー参入の成功例は、普及軌道の立ち上がり時期に参入した企業である。
・ドミナントデザインの獲得(F=0.80.9で発生)現象がある

 

見方を変えて、系統的な技術の発展という観点でくくり、開発軌道のスパンを調べた例を、図5に示す。共通して次の傾向が認められる。

・以前は50年以上の軌道スパンであったが、近年は技術革新のピッチが早くなり、殆どの場合25年スパンに短縮している。

5)

技術予測と新産業展開

以上述べてきた検証法は、21世紀における産業の展開を予測する目的でも使用できる。
図6の上のグラフは、各種の産業展開における技術軌道、下のグラフは普及軌道である。

   (図6)

たとえば、技術面で急発展を遂げたゲノム工学は、現在開発軌道が立ち上がろうとしている状態(図では省略)であり、普及軌道は2010年頃に立ち上がってくると見込める。
分子素子、電子デバイスの技術軌道は立ち上がり中であり、普及軌道の立ち上がりは2020年頃と見込める。
エネルギー開発(図省略)について考えると、技術開発の遅れが目立つ。普及は更に遅れるので問題がある。

質疑応答

技術軌道が立ち上がり、続けて開発軌道を立ち上げても、普及軌道が立ち上がらない例がある。どう考えればよいか。

A 途中でポシャルものもあるが、それを見分けるのは別の観点であり、本解析法での予測に際しては、普及に至ることが前提である。

 

Q スパン25年について、変動はどう考えたら良いか。

A 技術軌道開発速度は早くなり、そのスパンは短縮の傾向がある。一つの指標と考えて欲しい。開発軌道については遅れる例も多くあること、普及軌道は経済要因の影響を受けやすいことにも注意が必要である。

 

Q 大学発ベンチャーや技術経営との関連はどうか。

A ベンチャーを成功させている例は企業家が圧倒的に多い。(感性の差があるのかもしれない。) しかし大学発ベンチャーによって、遅れている開発と普及を促進させた効用があるのも事実である。
とはいえ、技術面の進歩を確実に進める事は重要であり、それは大学にしかできない事を忘れてはいけない。

 

Q ナノの技術軌道は、既にピークを越えている位置づけであるが、まだこれからでは無いのか。

A 幹の技術は既に飽和と考えている。今は枝葉についての技術開発が多数進行中と考えている。

                  (図は講演資料から転載)

文責 藤橋雅尚


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