緑の地球を取り戻すために -遺伝子組み換え植物は地球を救えるか-

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 牛山 敬一  /  講演日: 2005年07月21日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2010年11月23日

 

化学部会(20057月度)講演会報告

  2005721日(木)
テーマ 講演会

 

講演 緑の地球を取り戻すために! (遺伝子組み換え植物は地球を救えるか!)

奈良先端科学技術大学院大学 客員教授 牛山敬一 

18世紀の産業革命から始まり、人類がもたらした科学技術の発展は目を見張るものであり、その成果は人間社会を大きく変化させてきている。
その中で、あまり生活の場に姿を見せないバイオサイエンスであるが、最新の進展は目覚しく、特に遺伝子の解析とトランスファーの技術は著しく、対応する酵素やペプタイドのレベルでの遺伝子導入が、バクテリアやウイルスの力を借りずに可能となっている。

 一方、現在人類を取り巻く環境に、恐ろしい状況が芽生えてきている。ひとつは食料問題、もうひとつは炭酸ガスの増加による地球の温暖化である。地球の人口はすでに54億人を数え、その約40%が正常な生命活動を営むに足る食糧を得ていない。それに加えて中国の高度経済成長は、世界有数の穀物消費国へと高速で進んでおり、このままでは10年で飢餓に苦しむ人々は60%を越え、食糧価格の高騰による大混乱が生ずると予測される。一方食糧生産に関しては、年1%近い砂漠化の進行と土壌汚染・劣化、水資源の枯渇により耕地面積は減少の方向にあり、飛躍的な増産は見込めない。

地球温暖化の問題はもうひとつ深刻である。先日の台風で、各地で高波による被害が出たが、被災地の人たちは「長年暮らしてきてこんな被害ははじめて」と異口同音に語る。厳島神社の回廊が、ここ数年、大潮のたびに水に洗われる。台風の当たり年というが、南太平洋の水温が高いことに起因する。世界各地の平均気温はこの10年で1度近く上昇し、場所によっては3度近くあがったところも出ている。北極の氷原は減少し、氷河の後退も著しい。海水温の1度の上昇は、蒸発する水を増加させ、台風やハリケーンを、かってない大きさ、強さにし、そして陸上に降った雨は、人類によって構築または荒廃された暑い土を一気に流れ、さらに海水温と海水面を上昇させると言った悪循環に陥りつつある。

平均気温3度上昇と簡単に言うが、これが大変なことを引き起こす。植物は足を持たない。3度の温度変化によりその環境に耐えられず枯死するものが続出する。急激な砂漠化と気候変化が拡大し、酸素を必要とするあらゆる生命体は死滅せざるを得なくなる。

森は、1ヘクタール当たり、約100トンの水を植物体として蓄える力がある。そしてそれを取り巻く土壌は、さらに大きな水を蓄える。水の星、地球に、いかに多くの陸上水を保たせるかが、地球の生命体の存続を許す条件となっていることを、もう一度、思い起こす必要があると考える。もう、この悪循環は歯止めの効かないところまで来ているのかもしれないが、それでも、わずかな望みにかけて、最善を尽くすことが、今求められているように思う。

人類は、その知脳の高さで、快適な生活環境を生み出し、繁栄してきているが、同時に存続を危うくする状態も作り出した。そして、いまやその生活を捨てて、2000年前の原始的生活に戻れと言われても、後戻りできない状態にある。1発で何億円もする爆弾を落とすことよりも、ODAと称して、道路や橋や、ダムを低開発国に作ることよりも、地球の陸地の1/3を占める不毛の大地を、人類の英知で2000年前の緑の森に戻す努力が必要なのではないだろうか。それができれば、陸上水が増え、地球の表面温度も下げうるかもしれない。

                

NAIST及び仲間の研究者により、光合成系のある種の酵素を賦活することで、光合成が促進され、植物の成長速度をほぼ2倍にできることが証明された。この技術を用いることで、穀物の生産は少なくとも2倍にでき、水源地に森を育てる事ができれば、この危機的状況から脱却できる可能性がまだ残されている。耐塩性や耐乾燥性の遺伝子も利用できる。これら遺伝子組み換え植物の活用を目指して、最後の挑戦をしようではないか。

質疑応答

内戦による農地疲弊、過剰放牧に伴う植物の減少などに伴う砂漠化が各所で発生し、特にカラコルム地方の砂漠化が猛烈な上昇気流を引き起こし、モンスーン地帯での豪雨の発生、そしてヒマラヤ山脈の北側では乾燥化を進めているという悪循環を起こしているとのお話であった。どの様な対策が考えられるのか。

乾燥や塩害など障害が多い。例えばくずを移植する試みもあり、丈夫で繁殖が早く食用にもなりしかも豆科のため窒素の固定もする良いアイデアである。繁殖力が強すぎるため現地の植生を乱すという説で行われなくなったが、それは短期的な見方である。一旦緑化できれば、気候が安定し適合する植物で置き換わっていく。今は何とか砂漠化を押さえ、気温の上昇を食い止める事が大切である。

 

朝鮮半島では山が荒れたままであり、占領時代に木を切りすぎたことが原因との説が現地で有力だが、日本では緑が復活している。どのように考えられるか。

日本は多雨だが、朝鮮半島は大陸(中国大陸で北京の砂漠化が目前)の影響を受けて乾燥している。加えて木を燃料として使う生活の差も含めた複合結果だろう。これに気づいて自国での伐採は減少しているが、シベリアの木が切られている。シベリアでは温暖化のため凍土から冷凍マンモスが発見されるなど、ますます深刻化している。

 

先生の提唱された、葉緑体にラン藻ゲノムを導入する手法は、現在行われている遺伝子組み換え方法と異なり、安全性が高いとのことだがその理由と、安全とすればすぐ実用化できるような方法なのか教えて欲しい。

現在使われている遺伝子組み換え手法は、花粉の遺伝子が組み替えられているので広範囲に影響を及ぼすおそれがある。この方法は植物本体の遺伝子をさわるわけではないので、卵子を経由した遺伝しかできないので、そういう意味で安全である。とはいえきちんとしたテストが必要なのはもちろんである。

 

人口増加と、食糧供給との関連はどうか。

キーになるのは中国とインドである。この2国で欧米並の生活が普及すると一気に危機が来る。しかし石油が枯渇する50年後に、これ以上CO2が増え無くなればそこで安定するはずだが、その時点までにどうなっていくのだろうか。

  本日は、技術士という高い能力を持つ人たち対象のため、センセーショナルにお話した次第である。ご理解願いたい。是非事態をしっかりと理解し一般の方への啓発を進めて欲しい。

                  (図は講演資料から転載)

文責 藤橋 雅尚  監修 牛山 敬一


著者プロフィール 著者
> 
主な経歴
> 
資格
> 
その他
>