中小企業への技術移転 -求められる多彩対応-(大阪府立産業技術総合研究所)

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 松田 治和  /  講演日: 2005年10月20日 /  カテゴリ: 見学会  /  更新日時: 2010年11月26日

  

化学部会(200510月度)見学・講演会報告

  時 : 20051020日(木)
  所 : 大阪府立産業技術総合研究所
テーマ : 講演と施設見学

10月度の化学部会は、大阪産業技術総合研究所を訪問し、水谷 潔 業務推進部総括研究員の総合司会のもとで、講演を受けた後所内見学を行った。

  

講演 中小企業への技術移転 -求められる多彩対応-

大阪産業技術総合研究所長 大阪大学名誉教授 工学博士 松田治和氏

アメリカで注目された「公設試」

公設試は全国で約140箇所あり昭和初期に設置されたものが多い(府産技研は昭和4年設立)。業務は中小企業への技術指導であるが、現在は産学協同のオーガナイザー的な役割が大きくなってきている。
中小企業のボトムアップに公設試・公設研の果たした役割は大きい。日本No1の時代に、これが日本躍進の原動力の一つであるとの評価から、クリントン大統領が公約で170(日本と同数)の公設試設立を上げ、現在ほぼ充足されている。(ドイツにも同様の施設がある。)
府産技研では、技術系職員は中小企業の技術にくわしく、地に足がついた活動をしており、大学の先生の及ぶところではないと自負している。

産業興隆への軌跡

アメリカでは、国家戦略として開発研究推進のため第2次大戦中などに軍事研究を、MIT,STANFORD大などへ研究委託したことをベースに技術が伸長し、アメリカの経済低迷期におけるクリティカルテクノロジーとして、バイオ・エネルギー・新素材などを手がけ現在に結びついている。
大阪を例に取ると、明治期の和魂洋才の天才指導者(渋沢栄一、五代友厚など)の活躍により、砲兵工廠や造幣局を招致したことが、金属系基盤技術の確立と人材育成を果たした。このことが現在の大阪地域での金属産業につながっている。

組織化が30年遅れた日本での産学連携

日本では、大学紛争により産学連携がタブー視された時代があったことと、企業とのつながりが教師と生徒の人脈で進められた非公開型のスタイルが主体であったことにより、企業からの資金はロイヤリティーではなく奨学寄付金のかたちで供給されていた。例えば阪大では奨学寄付金の額がSTANFORD大のロイヤリティー以上の実績であったが、この資金は不況による変動など問題があり、産学連携がアメリカに対し30年遅れてしまった。しかし、長期経済低迷打開のため、連携の推進が加速しており、数の上では大学発ベンチャーの実績が目標の1,100社を越える状態となっている。

 ところで企業の目で見て、産学連携を上手にしている大学のNo.1は立命館大(4億円成立)である。この理由について別件で立命館大学や他大学の方を加えたパネルディスカッションを行った経験から考えると次が言える。立命館大では産学連携推進のため40名の専任スタッフを大学が抱え技術移転を積極的に、しかもきめ細かく推進している。国公立ではこのような体制は考えられない。言い替えると、産学連携の必要性の理解に関する大学間の温度差があり、それに加え産学連携の必要性を感じて積極的に動こうとする教師が少ないことが今後の問題といえる。

府産技研の立場から考えると、産学連携の推進には府産技研が向いていると思っている。また府産技研では、自分のところで解決できない場合は他の研究所を紹介するなど、大学と異なってきめ細かく対応できる。現実に相談件数の実績は、公式集計分だけで年間1万件を越えており、全国でもトップクラスである。

笛ふけどまだ踊れない中小企業

中小企業について考えると、産学連携の利用に関する見方が甘い傾向がある。死の谷に耐える投資についての可否判断、大学の先生に任せておけば最後まで開発可能という誤解など、血の汗を企業も流す覚悟がまだできていないことが、最大の障壁になっている。この面から見ても、府産技研は大学と企業が総括提携するための、優秀なコーディネーターになりうるので、今後も進めていきたい。中小企業への技術移転には様々なバリエーションがあり、それぞれについてきちんと考えて、進めていく事で対応していきたい。

<質疑>

 Q 立命館大学の4億円という実績は委託研究が主体か。

A そう聞いている。

 

Q 府産技研の中小起業支援実績は全国ではどの程度か。

A No1は東京である。神奈川県も頑張っているが数値上ではなくトンネル委託など中身を考えると、大阪が上位である。

 

Q 研究機関の独立法人化についてはどうか。

A 東京がトップを切って独立法人化する。これは都の組織が大きくなりすぎその弊害が産業技術研究所の運営に支障を来す状況になった事による。大阪の場合、検討は行っているがすぐに行う予定はない。

 

Q 大学で産学連携に興味を待つ先生が一握りであるわけは。

A 自分にとって産学連携のメリットが見込めないことと思う。報文の数は大学人としての評価対象だが、特許は対象に入らないのに加えて作成が難しい。すなわちインセンティブが無いことにつきると思う。

 

Q 立命館大が40人も人を置いて推進する理由は。

A 大学のイメージアップにつきると思う。イメージが上がれば、企業が集まり学生も集まる。学生の就職にもメリットが出るという評価と推察する。

 

Q 府産技研にお願いする時の経費はどうか。

A 個々の設定をした表を見てもらえばよいが、民業との関連もあり余り安い設定はしていない。スタンスは機械を貸して自分で実験してもらう(指導はする)のが主体であるが、もちろん依頼試験や相談のみの設定もある。

<所内見学>

 水谷総括研究員の案内で、最新鋭機を初めとして見学を行った。

文責 藤橋雅尚


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