高精度粉体材料評価装置の開発と最近の応用 (日本ベル株式会社 見学会)

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 末吉 俊信、仲井 和之  /  講演日: 2006年02月16日 /  カテゴリ: 見学会  /  更新日時: 2010年11月30日

 

化学部会(20062月度)見学・講演会報告

  時 : 2006216日(木)
  所 : 日本ベル株式会社
テーマ : 講演と見学

   

講演1 会社紹介

測定部課長 博士(理学) 技術士(化学) 末吉 俊信

企業の沿革と得意分野

創立は1988年と若い企業であるが、多種多様な吸着関連の分析機器のメーカーとして高い信用を得ている。主な自社製品は、比表面積/細孔分布測定装置、自動ガス/蒸気吸着量測定装置、極微小表面積測定装置、高温高圧でのガスや水蒸気の吸着測定装置だが、海外企業とタイアップしてコロイド分析の機器なども販売している。
後発ではあるが、コア技術として吸着、触媒評価、高真空(10-8Pa)、高圧(500bar)、自動制御などに高い技術を持っており、比表面積の測定機では国内唯一のメーカーであるとともに、グローバル戦略として海外17ヶ国に販売網を持っている。

講演2 高精度粉体材料評価装置の開発と最近の応用について

     取締役開発部長 博士(理学) 仲井 和之

はじめに

学生時代ガス吸着の研究をしたが、当時の測定機器は4000万円もしたため安くしようとして創業した。開発に際して恩師を含め多数の方のお世話になった。
ガス吸着の分野で、粉体の表面を見ると、活性炭は比表面積が50m2/gだが細孔はないのに対して、活性炭素繊維は 1000m2/gクラスでありナノメーターサイズの細孔がたくさんある。シリカは200m2/gで細孔をもたないが、ゼオライトは結晶構造の細孔を持ち、N2を吸着するがO2は吸着しない性質を持つため在宅の酸素吸入器用の酸素分離器に使用されている。
水素吸蔵合金であるランタン・ニッケル合金は燃料電池使用車で使用する際、高圧の水素を使用するより安全なため開発研究が続けられているなど、ガス吸着をキーワードとするニーズは多数あり、表面積の測定は重要な分野である。

吸着について

吸着(Sorption)には、表面吸着(Adsorption)、脱着(Desorption)、吸収(Absorption)や、別の観点からは化学吸着と物理吸着があり、吸着量は圧力・表面積・細孔径により決定される。吸着はまず最初に表面吸着が始まり、細孔への凝縮に続いていく。大中小3種類の細孔を持つ表面を考えると、表面吸着に続いて小さな細孔が凝縮により埋まり圧力を上げていくに従い、中・大の順に細孔にで凝縮が始まり順次埋まっていく。ミクロで見ると、ガスの場合は単分子層吸着に続けて2分子層吸着と増えていき、多分子層吸着へと段階的に増えていく。
金属の吸着は化学吸着であるが、H2COの吸着を測定する事により金属への分散度や表面積がわかってくる。金属触媒では温度領域により表面の酸化・還元の能力が入れ替わるなど表面積分析による知見は重要である。

吸着量の測定について

吸着量測定の原理は、一定量のガス雰囲気に吸着剤を置き、吸着された量(質量)を測定する事である。理論的にはLangmuirの式(mi=PiVs/RT)がベースとなりBETの式につながる。 P/V(P0-P)=(1/VmC)+((C-1)/VmC)(P/P0)

測定に際して、死容量を一定に保つ技術(温度制御、圧力制御など)が重要であり再現性の高い技術を開発しPatを得ている。吸着量の測定も重要でありガスの浮力や腐食性ガスの影響を避ける隔測法など周辺でも高い技術を持っている。

細孔系の定義に関しては、ガス吸着の分野では100nm以下の領域が大切であり、細孔のかたち(ストレート型、スリット型、とっくり型など)により種々の特性が見られ測定技術の発揮しどころである。

まとめ

燃料電池においても、隔膜における細孔のサイズや分布の測定、水素吸蔵合金の物性評価などが測定できる様になり、特に自動車用の分野で技術開発が急ピッチで進んでいる。かっては基本知見があっても開発が難しいとされていた技術領域でも、分析技術の発達により知見が増した結果新しい材料が生まれ、それを評価する技術が開発されてくる。当社の技術は今後の科学技術発展に重要な分野を占めていると考えているので。今後ともよろしくお願いしたい。

<質疑>

Q 自動車用の水素吸蔵では、脱着速度も大切だと考えるがどんな様子か。

A T社が頑張っているので加速度的に技術開発されると考えている。なお、ランタン・ニッケル合金の場合、表面吸着ではなく吸収のため脱着を繰り返すと徐々にこわれてくる事も問題点としてあげられている。

 

Q 吸着は単分子層吸着と考えていたがもう少し説明して欲しい。

A Langmuir膜は単分子層の設定だが、ガス吸着の場合は必ず表面エネルギーの大きな場所の単分子層に2層目がつき、全体に2層3層と増えていく。

 

Q 液層吸着の場合、重量法で定量できないと思うがどうしているのか。

A 吸着前後の溶質を元素分析により定量化する方法などがある。

 

Q 吸着曲線は、吸着時と脱着時でヒステリシスがある。理由はわからないか。

A 例えば、奥は広いが出入口が狭い細孔を考えた場合、吸着の際は毛細管現象で入口が詰まったような状態になり、奥まで分子が入ってこない状態を経由して、圧力の強さが毛細管現象に打ち勝った時点で細孔への凝縮が始まる。脱着の時はその逆であるので、吸着曲線が変わってくると考える。

 

Q くさび形細孔の場合はどうか。

A 奥から順番に吸着されるので細孔は存在しないように見える。

 

Q カーボンナノチューブによる水素吸蔵はどうか。

A 着目されているが物理吸着が困難であるという問題点を持っていると聞いている。

見学

比表面積細孔分布測定装置(3サンプル同時自動測定機)などの測定機器や、磁気浮遊天秤の見学、ならびに高濃度コロイド液のゼータ電位の実測などを見せていただいた。

  文責 藤橋雅尚   監修 末吉俊信 


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