光学活性医薬中間体の工業的製法の開発 (ダイソー化学株式会社見学会)

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 古川 善朗  /  講演日: 2006年10月12日 /  カテゴリ: 見学会  /  更新日時: 2011年03月07日

 

化学部会(200610月度)見学研修会報告

  時 : 20061012日(木)
  所 : ダイソー株式会社 研究所と尼崎工場
テーマ : 見学研修会

 

 講演 光学活性医薬中間体の、工業的製法の開発

研究開発本部 研究所 理事 研究所長 理学博士 古川 喜朗 

1)ダイソー株式会社について

1915年にカセイソーダ製造を目的として設立、大曹式水銀法食塩電解法を開発した。現在の製造品目は、無機化成品、有機化成品、合成樹脂、樹脂加工品、医薬品、電極や電子機器材料、セラミックスなど多岐にわたっている。社名についてはグローバルな展開をめざして、1988年に大阪曹達株式会社から、ダイソー株式会社に変更した。売上高は667億円で国内に5工場と1研究所、米・欧・アジアに4拠点を持っている。

2)事業内容について

電気分解製品の一つである塩素を活用する有機化成品事業では、プロピレンをベースとし、アリルクロライドを経由してエピクロルヒドリン誘導体を多数扱っている。エピクロルヒドリンからは、エピクロルヒドリンゴム(耐油性に富むため自動車用ホースに利用)や塩素化ポリエチレンなどの機能性樹脂の製造に加え、ライフサイエンス向けとして光学活性を持つ多数の医薬中間体を製造している。

光学活性体事業への展開に際しバイオ技術を利用したことから、バイオ技術の展開を図り機能性食品素材の分野にも進出した。別途無機系の分野では、カセイソーダの他にジア塩素酸ソーダなどの無機塩素誘導体の製造、電気分解技術をベースにして電極や液体クロマトグラフ用シリカゲルの製造、水銀を扱う技術を活用して蛍光灯の回収処理などを行っている。

3)キラルテクノロジー(不斉化合物技術)

生体内では光学異性体がある場合、一方は有用であるが他方は毒性を持つ例が多くある。サリドマイドが有名な例であり、当初てんかん用の抗痙攣薬として開発され、睡眠薬としても副作用の少ない安全な薬として使用された。サリドマイドは分子内に不斉炭素を一個持ちRS体が存在するが、開発当時は分離が難しいためラセミ体として発売され、R体は毒性が低いけれどもS体が強い催奇形性を持っていたことによりいわゆるサリドマイド事件が発生した。

エピクロルヒドリンを開環すると3個の炭素原子の内、真ん中の炭素が不斉炭素となる化合物を合成できる。これを微生物による光学分割や光学触媒による合成を行ってキラル化合物を多数開発し製造している。光学活性体の用途は、医薬81.2%、農薬14.1%、フレーバー4.7%であり、特に医薬のTop100500の範囲では60%程度が光学活性体である。このため医薬品企業からは種々の化合物について引き合いがあるなど発展分野と考えている。

まず微生物による分割について述べる。考え方は生物が光学活性体を識別できる事を利用して、ラセミ体化合物の一方のみを資化できる(栄養源とする)細菌を見つけ出し対象物の中で培養すると、利用されないもう一方の光学活性体のみが残る現象を利用する。土中の細菌を抽出しスクリーニングを行った結果、エピクロルヒドリンの開環反応生成物を、光学活性体として分離することができるようになり工業化に成功した。現在は光学純度99%ee以上を得ることができ、さらに遺伝子操作を利用して光学活性アミノ酸合成用の酵素を作る研究を進めている。

一方化学的な製造法については、ノーベル賞の野依先生の研究をきっかけに触媒法が進化し、充分な光学純度を持つ化合物の合成が可能となった。コバルトを含む錯体触媒の技術を導入したが、触媒が高価なため現在は自社で触媒を開発して使用している。

Q&A

Q 食塩電解業界は塩素バランスが問題となり、一時期塩素が余っていたが今はどうか。

A どちらかといえば塩素不足であり、他社も同じと思う。

 

Q 食塩電解法で、水銀法からイオン交換膜法に切替られたが、較べるとどうか。

A 国策だが、品質面から見ると水銀法の方が勝っていると思う。

 

Q 貴社の技術に水素の化学が入っていないがどうしているのか。

A 近隣の工場に全量販売しておりその影響で発達が遅れている。

 

Q 他社では塩素の活用はエチレンの方向に向かっているが、貴社はどうしてプロピレンに向かったのか。

A 90年の歴史の中での選択としか言えない。

 

Q 微生物法というのはユニークだが、化学的方法とどちらに将来性があるか。

A 新規化合物の場合、まず化学的方法で合成する。化学的方法がコスト的にむつかしい場合、生物的方法への移行を研究する。製品によって使い分けている現状である。

 

Q オリジナルの触媒と、貴社の開発触媒では特許の抵触はどうなっているのか。

A 物質特許の範囲が広いので、範疇に入っている。

 

Q 触媒のリサイクルはどうなっているのか。

A 安価なため、使い捨てている。

 

Q 微生物をスクリーニングするのは一般に大変な作業だが、多種にわたってよく見つけられたと考える。良ければ秘訣を教えて欲しい。

A 工場の敷地内で長年にわたって淘汰されたものの中から見つけた。

工場見学

尼崎工場では食塩の電解に加えて次を製造している

CABRUS
省燃費タイヤではゴムにシリカゲルを加えているが、ゴムとシルカゲルをなじませる目的で使用する架橋剤。アクリルクロライド誘導体と多硫化ナトリウムをカップリングさせており、金属ナトリウムと硫黄の直接反応を利用。

ダイソーゲル
液クロ用の多孔質で粒度がそろい真球に近いシリカゲル微粉。(シェア80%

亜鉛メッキ用電極

この中で電解工場、CABRUS工場、ダイソーゲル工場を見学させていただいた。

                        文責 藤橋雅尚


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