EUの新化学物質管理規則 -REACHの影響-

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 木村 修  /  講演日: 2009年12月12日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2011年01月09日

  

化学部会(200912月度)研修会報告-1

  時 : 2009年12月12日(土)
テーマ : 講演会

 

講演-1 EUの新化学物質管理規則 -REACHの影響-

木村 修 技術士(化学部門)  ()近畿化学協会 化学技術アドバイザー
元住友化学工業()勤務・日本精化()代表取締役常務、新興化学工業()顧問

 

はじめに

住友化学工業()での研究開発、日本精化()でのリポソームを使用した製剤技術など有機化学系を中心として経験したが、新興化学工業()では技術顧問として都市鉱山からセレンやテルルなどレアメタルの取り出しに関連して、REACHへの対応を経験した。本日はREACHの概要と日本の化学物質規制についてお話する。

世界の化学品管理の変化

日本での1973年の化審法制定を最初の例として、各国で化学物質の管理が始まったが、環境汚染防止の視点が強かった1992年のリオデジャネイロサミットでの“アジェンダ21”採択等を契機に、「人類が他の生物とともに繁栄を続けていく」という視点への変更がなされた。さらに2002年のヨハネスブルグサミットでは2020年までに人の健康と環境への悪影響の最小化を目標として、SAICM(国際的な化学物質管理のためのアプローチ)策定を決定し、2006年には化学物質管理体制の支援と途上国への技術協力の支援が始まった。

REACH

欧州では1979年から化学物質に関して、その分類や包装への規制が開始されたが、既存化学物質の安全性確認が不充分との認識となり2006年にREACHRegistration Evaluation Authorization  Restriction of Chemicals:登録・評価・認可・制限)が成立し、2007年施行、2008年既存化学物質の予備登録(猶予期間付き)が行われた。

REACHは過去にはない包括的な化学品管理法であり、1物質1登録を原則として、サプライチェーン全てを規制する。安全性評価の実施主体は民間であり、その物質を使いたければ(リスク評価データを伴った)登録が求められる。なお評価のためのコストについては関連事業者がグループを作って分担する方式である。登録の対象は(化学)物質(単品、原材料)および混合物、成型品に含まれる(化学)物質について、EU域内において、1物質1企業1年間の取扱量1t/y以上の物質である。既存化学物質・新規化学物質の全てが対象となる。 登録は、EU域内の製造業者、輸入業者が実施する。日本の企業は欧州域内の唯一の代理人または輸入業者に登録を委ねることになる。

予備登録期間は既に終了しており、製造量・輸入量に対応した猶予期間(2010/112013/62018/6)の間に本登録を行う必要がある。物質名はCASEINEXELINKSで管理されWebサイトで公開されており、1物質1登録を推進(試験用の動物愛護の精神、費用の削減)するため、予備登録をすれば登録予定者はSIEF(物質情報交換フォーラム:同一物質を扱う事業者のグループ)に入るための情報が入手可能となる。SIEFではメンバーがコスト負担や役割の分担を行って登録作業を行う。

予備登録は65,655(82%が中小企業)143,763物質 (エントリーは2,212,129) について行っており、内54,672物質については本登録の期限が2010年である。SIEF5000社以上での構成になる例もあるが、大半のSIEF19社である。コスト配分については中小企業への配慮がなされている。データの共有に関しては、企業秘密確保や独占禁止法遵守など課題も多い。認可化学物質については、認可された用途に限って使用できるが、代替物の検討(製造業者、輸入業者または川下事業者の登録申請または届出)も必要である。

REACHのメリットは、健康に関する利益だけで30年間に500億ユーロが期待されていることと、従来の仕組み(10Kg/y以上の化学物質に対して課されていた新規化学物質に対する試験項目)が1T/y以上に限定されることにより研究開発の活発化を期待できることである。一方、コストについては直接コストだけでも11年間で23億ユーロが見込まれるなど、総コストとして2852億ユーロが見込まれている。

化審法

化審法も改正(201041日施行)される。主要点はハザードベースからリスクベースへの変更、国際整合性の確保である。優先的に安全性評価を行う必要のある化学物質が指定されることや、情報の提出・報告・表示が求められる。化学物質を扱う事業者は人の健康と環境の保全のために一定の負担を求められる時代であり、リスク管理に移ることを念頭に業界内での協力を含めた体制を構築していく必要がある。

Q&A

Q REACH では登録のためのデータの信頼性はどのようにして担保するのか。

A OECDのテスト・ガイドラインなどの国際的に認められた指針に従うよう求められている。(各社が任意の方法で取得したデータは認められない)

 

Q SIEFでの機密はどのようにして確保するのか。自社独自品の場合はどうするのか。

A 機密は契約によって確保する。特に秘匿したい情報については、その部分を企業が独自に登録することも可能である。独自品の場合は1社で対応するしかない。

 

Q 65000種類ものデータ処理は可能か。

A 予備登録には公開されたツール(IUCLID5)を用いて、一般的には1物質に対し1xmlファイルが作成される。予備登録はITREACH-IT)で実施する。欧州化学品庁(ECHA)はコンピューターでデータ集計や編集ができる。短期間に集計、整理がされた。登録にもIUCLID5が用いられる。

文責 藤橋雅尚  監修 木村 修


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