分離精製技術 (レゾルシン、アクリル酸:体験談)

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 安田 稔  /  講演日: 2010年12月11日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2011年02月20日

 

化学部会(近畿支部共催)201012月度)講演会報告-1

  時 : 20101211日(土)
テーマ : 講演会

 

講演1 分離精製技術(レゾルシンとアクリル酸:体験談)

安田 稔 技術士(化学)大阪大学大学院修士課程修了後、住友化学工業株式会社にて勤務
来年4月から大阪市立大学非常勤講師

 

はじめに

化学品の工業的製造では、一般に反応工程より分離精製に費やす工程のウェイトが大きい。演者は住友化学工業株式会社、ダイトーケミックス株式会社等でレゾルシンの工業化、ピレスロイド系殺虫剤製造合理化、医薬品製造の工業化と合理化(団子図や標準化)などを経験した。本日は圧力晶析プラントの新設と、アクリル酸プラントの増産と合理化について紹介する。

レゾルシンの工業化

メタクレゾールはスミチオンなど農薬の原料、パラクレゾールは酸化防止剤BHTなどの原料として用いられる。製造反応はトルエンを原料とするパーオキサイド法であるが、反応生成物はメタ体とパラ体の比が3:7程度の混合物であり分離が必要である。メタ体とパラ体は沸点にほとんど差がないことや、図1に示すように融点がメタ体12℃、パラ体35℃で分離可能なように見えるが反応生成物が2箇所の共晶点の間にあるためそのままでは純品が晶析しないなど、というやっかいな物性である。一般にはブチル化やスルホン化を経由して分離する方法や、尿素・水・溶媒系での晶析法などが採用されている。

   

住友化学では神戸製鋼が開発した圧力晶析法について研究し工業化した。圧力晶析法とは、図2に示すように加圧に起因する共融点の移動現象を利用し、目的とする成分を加圧し、常圧に戻すことにより晶析させる方法である。実験の結果、バッチ方式で1500気圧に上げることにより、3分程度で晶析を完了でき、エネルギー的にも冷却晶析法の70%程度で精製できることが分かり3000t/yのプラントを作った。技術上の問題点は高圧力による材料(特にパッキンやフィルター)の耐久性予備晶析槽でのスケーリング等であったが、原料の組成安定化等の工夫を積み重ねて実用化に至った。この方式で15年間生産したが、現在は他の方法に切り替えている。

アクリル酸の精製

アクリル酸は紙おむつ等で需要が増大しているため、増産と製品純度のアップを目的として数次にわたる改造を行った。アクリル酸はプロピレンの空気酸化反応により合成するが、爆発回避のために使用している水蒸気が生成アクリル酸水溶液の濃度を低下させるため、排ガス循環プロセスの開発を行うとともに、粗製アクリル酸を蒸留酸とし、高純度アクリル酸(GA)の生産を可能とした。最も苦労したのは、吸水性ポリマー製造に対応するための精製工程での重合トラブル対策であった。なお、このプラントは事業交換により、2007年に生産を停止した。

Q&A

Q 現在クレゾールの精製はどうしているのか。

A 容器の壁面に結晶を成長させる方法を採用している。

 

Q 圧力晶析を現在コマーシャルベースで行っているところはないか。

A 小量の場合はバッチ晶析で対応できるので、生産量が多くないとペイしない。但し他に方法が無いときには有効であり、大学でのサンプル作り利用している例がある。

 

Q アクリル酸は80%程度の含水で重合していたが、なぜ水分を除くのか。

A 純度を上げるためには、水分を除かないと達成出来ないので行った。

               (図は講演資料より転載)

文責 藤橋雅尚、監修 安田 稔


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