環境曼荼羅-生物と地球環境40億年の歴史と人類1万年の影-

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 田井 晰  /  講演日: 2010年12月11日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2011年02月20日

 

化学部会(近畿支部共催)201012月度)講演会報告-2

  時 : 20101211日(土)
テーマ : 講演会

 

講演2 環境曼荼羅 ―生物と地球環境40億年の歴史と、人類文明1万年の影―

田井 晰 理学博士 兵庫県立大学名誉教授

 

地球と生物、46億年の流れ

本日は視点を環境史においてお話しする。宇宙誕生(ビッグバン)11日、現在を大晦日で表すと、太陽系の誕生は8月下旬、水の惑星地球が出来たのが95日である。40億年前(920)太陽のエネルギーは現在の70%程度と弱かったが、大気に有った2barCO2の温室効果で気温は現在と同じくらいであった地球に生命が誕生した。

地磁気が無く地表が高エネルギー素粒子にさらされていた嫌気状態の地球に生まれた原始生物は暗黒の海底に住む単細胞原核生物で、自然力で生成した有機物の発酵で生存エネルギーを獲得する従属栄養生物であった思われる。その後原始生物はバクテリアと古菌に分かれて進化、地球に磁場が生じ生物の地表棲息が可能になった30億年前(1015)、ついに光合成をする独立栄養生物シアノバクテリアが出現する。シアノバクテリアによるO2の生産とCO2の消費が始まり、O2は先ず海水中の2価の鉄イオンをFe2O3として沈殿、飽和したO2は順次大気中のO2分圧を増大させ、同時に大気CO2の分圧が下がっていった。このCO2分圧の低下が太陽エネルギーの増大に伴う地球温暖化を防ぎ、生物が生存できる環境を保持してくれたと言える。またO2分圧の増大はオゾン層を形成、有害紫外線の遮蔽で将来の陸上生物の出現を可能にした。一方O2の存在は高効率で生存エネルギーを獲得でき酸素呼吸をする好気性バクテリアの出現を促し、太陽エネルギーを利用した生物による炭素循環の確立と独立栄養生物と従属栄養生物の食物連鎖の基本がバクテリアの世界で完成した。

     

その後の生物界は図に示す様に古菌とバクテリアの合併による真核生物の出現(20億年前;1110)、多細胞化による動植物の出現(6億年前;1215)、生物の陸地への進出(4億年前;1220)と発展、地球環境の非定常的激変による大量絶滅に5回も遭遇しながらも回復、多くの新種出現で生物多様化は右上がりに推移し。太陽の力による持続可能な生物と地球環境、持ちつ持たれつの40億年の歴史を展開して来た。そして15万年前(12312355)現代人が生物の1員としてこのシステムに参入、1万年前(235940)に農業文明構築という生物界から突出した活動を開始、これが原因で宇宙歴20秒という短期間にシステムを揺るがす地球環境異変が発生、現在最悪の状態に至っている。

人類文明と環境問題

人類は出現以来、飢えと戦ってきた。進化の過程で1万年前に食糧確保のため農業を始めた。農業とは、植物により固定化された太陽エネルギーを人類のために囲い込む業とも言える。農業により食糧の拡大生産に成功した結果、農業文明が始まって集落や国家が形成されたが、これは人間による生物と大地の支配でもあった。ところで、農業による物質収支を考えて見ると、食糧は栽培生物による太陽エネルギーの固定でまかなえたが、文明を支える燃料や資材は、地球が備蓄してきた木材など過去の太陽エネルギーの助けを必要とした。

ここで、ユーラシア大陸の西と東の違いを考えて見る。西は乾燥地帯であり麦と牧畜の文明であるが、麦は生産性が悪いため、森林の圧迫による農地拡大を必要とする非持続型の文明が進んだ。東はモンスーン地帯であり稲作と漁労の文明となり、稲は麦よりはるかに生産性が高いため完全持続型の文明が構築された。西欧型農業文明は地域の備蓄を使い尽くすと他へ出て行かざるを得ず、フロンティアとしてアジア・アフリカ・アメリカに進出して収奪する大航海時代を迎えた。その後機械エンジンの発明により、熱を動力に変換することが可能になって産業革命が起こり化石資源を大量に使う近代文明に移行した。持続型であった東の文明も植民地化により西欧型の文明が浸透、20世紀には世界全体が非持続型近代文明の最盛期を迎え、21世紀に入り資源・環境負荷、両面でその限界が見えてきた。

環境曼荼羅(まんだら)

曼荼羅とはサンスクリット語が語源で、仏教では世界観、宗教によっては宇宙観という様な意味がある。環境について曼荼羅にまとめたものが図である。元々は、太陽から得たエネルギーを基幹とし地球エネルギーが加わることにより、大気圏・水圏・地圏を巻き込んだ、気象や気候、光合成を中心とする生物循環、水循環などが回っていた。

ここに人間の文明が加わって、人間よる一部独占と撹乱が始まり、大気・海洋・河川・陸上に汚染などの負荷を加えてしまった。結果として、種の絶滅などの事象が始まっている。科学技術による解決が期待されているが、現実は軽薄短小化で破局時期を遅らせるグリーサイエンスと称する延命策がやっとである。結局文明に対する人間の精神構造が変わるのを待つしかなく、環境倫理、人口抑制、右下がり経済などを受け入れる人間の理性が求められている。

Q&A

Q 効率の良い光合成を人工的に行う考え方は成り立つか。

A 化学の立場からは無理である。生物の分子識別に受け入れられ食物連鎖に組み込まれる物質を製造する方法は遺伝子操作を含む広義の農業以外に無い。

 

Q 仏教感の話があったが、他の宗教との関係はどうか。

A 人類は地域により2種類の思想に分かれた。乾燥地帯では遠くまで見えるので思うがままに自然からの収奪、モンスーン地域では森の中で身を守る自然共存の方向となった。近代文明の基盤は前者にある。

講演終了後

相原敏明氏(技術士(水道)関西二期会)によるお話と独唱が行われた。

               (図は講演資料より転載)

文責 藤橋雅尚、監修 田井 晰


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