国際的な研究開発企業を目指して(ナード研究所 見学会)

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 北庄司 健  /  講演日: 2011年06月16日 /  カテゴリ: 見学会  /  更新日時: 2011年07月20日

 

化学部会(20116月度)見学会報告

  時 : 2011616日(木) 15:0017:00  (共催:近畿支部)
  所 : 株式会社ナード研究所

 

テーマ :研究開発支援型企業の見学と講演会

講演 国際的な研究開発支援企業をめざして

北庄司 健  株式会社ナード研究所 代表取締役社長

会社概要

株式会社ナード研究所とは、企業の研究所や公的研究機関を対象として化学分野での受託研究(研究支援)をしている企業である。具体的には、有機合成技術やコンポジット化技術などを駆使して、医薬品・電子材料・自動車材料・家電製品・化成品・繊維・建築材料などなど化学に関するものをすべて対象としている。

創業は1972年で荒川林産化学工業株式会社の技術系役員および研究員がスピンオフして設立された。(社名の由来はNEW ARAKAWA RESEARCH DEVELOPMENT)(北庄司社長は4代目) 創業当時は新しいビジネスモデルで認知度もなく苦労したが、現在では資本金1億円、社員110名(内90%が研究員)となった。ナード研究所の特徴は、合成研究から応用開発まで、そして研究から製造まで一貫して実施できる体制を組んでいることにある(製造は、株式会社ナードケミカルスが担当)。

創業当時について

創業当時は、企業に研究をアウトソーシングするという考え方がない時代であり、また会社には社会的認知もアピールできる研究成果もなかった。しかし創業の精神を大切にし、創業者の人脈などを頼って少しずつ研究実績を積み上げていった。累積赤字を解消するために10年を要したが、ベンチャー企業としてマスコミに取り上げられるなど徐々に認知が進み、現在の取引先は民間270社以上、大学・公的機関40以上になっている。 

研究・開発実績について

事業の柱のひとつであるファインケミカルの合成は、医薬、農薬、医・農薬の生体代謝物などの合成を対象とするライフサイエンス研究部と半導体材料、ディスプレイ材料、電池用材料、機能性色素・染料、有機金属触媒などの機能性有機材料(低分子、高分子、オリゴマー、デンドリマー)の合成を対象とするマテリアルサイエンス研究部がある。また、もうひとつの柱である機能性材料の開発では既存の化合物などを組み合わせて新しい機能を引き出す開発を行っている。

開発した製品の例として、図1の溶接スパッター養生シートは、アクリル難燃化繊維の不織布にシリコン系難燃化素材を複合させており原子力設備など重要な施設の上部で溶接する際の保護シートとして多く採用されている。図2は放射線量のインジケータである。10Gy400kGyの範囲で目視により累積放射線量を測定できる。電子線重合の品質管理用などに用いられている。

            04_1  図1 溶接スパッター養生シート

                        図2 放射線量インジケータ

ビジネス環境の変化と対応策

世界同時不況の影響を受け、クライアント企業の業績が悪化(研究開発費削減)、企業の体質強化対策として合併やM&Aが実施(クライアント企業数の減少)、合併に伴う研究部門の拡充と内製化(特に製薬業界)など大きな変動が生じている。加えて、国内同業他社の増加(規模の拡大と価格競争)に加え、海外企業(特にアジア地区)との競合も厳しくなっている。受託研究の市場規模は世界的に見て2003年の経済産業省の調査では3兆円規模(日本は4000億円規模と推定)であり、現在では市場はさらに拡大している。中国・インド系企業の参入拡大するなかで、コスト競争力のみを武器とした企業の生き残りは難しいと考えている。

当社をSWOT分析(Strengths, Weaknesses, Opportunities, Threats)してみると、機会(O)はあり、脅威(S)はM&Aなど大きい。強み(S)は、顧客対応のスピード、諦めない姿勢、有機合成に関する技術力、独立資本、化学業界でのブランド力である。弱み(W)情報収集力、受身のスタイル、営業力(研究員が営業を兼務)、資金力、人材育成のシステム不足、化学以外でのブランド力が弱いなどがあげられる。

このことを踏まえて将来のビジョン、戦略を打ち立てている。
まず、医薬品などの製造に関してはプロセス開発をFTE研究で受注し、研究終了後製造して納品するプロセスソリューション型受注を拡大させる。また、経営を安定化させるために受託研究だけでなく自主開発品にも注力していく。例えばバイオ研究での
リン酸化物質(タンパク質、ペプチド等)の分離・精製・検出に用いられるフォスタグ製品・技術の展開に力を入れている。他にもPET(ポジトロンエミッショントモグラフィー)用試薬を海外企業とコラボレーションして開発・販売している。社内組織も従前のグループ別独立採算制の利点を残し、弊害の改善や自主開発を促進する目的でライフサイエンス研究部、マテリアルサイエンス研究部、コーポレート研究部の3部制に変更した。

ナード研究所の将来像は、化学技術に秀でた国際的な研究開発支援企業である。常に技術水準を高く保ち、チャレンジ精神を忘れずに、国際的にも高く評価される研究パートナー企業を目指していきたい。

見学

研究施設、ならびに共通用の設備を見せていただいた。

Q&A

Q 受託研究には難しい物と日銭になる物がある。どちらにウェートを置かれているか

A 確実にお金になるやさしいテーマをベースにして難しいテーマをやりたいが、単価が高い関係で難しいテーマばかりが回って来る。しかし、難しいテーマに果敢に挑戦することにより技術力のアップに繋がる、不成功に備えて、ドロップしても他でカバーできるように心がけている。

  

Q 同一テーマで複数企業から打診のあった場合はどうしておられるか。

A 先の企業を優先する。知財が絡むのでなんとか理屈を付けておことわりしている。

  

Q ロイヤリティーはどうされているか。

A 知財権は先方に渡している。(ロイヤリティーを求めると客は来ない)

  

Q 事故や労災、フレックス制における就業時間数について、どんな具合か

A ヒヤリハットの共有など事故防止に努めている。時間数は労基の範囲内に納めている。

(文責 藤橋 雅尚  監修 北庄司 健


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