大阪市立工業研究所 研究事例紹介と見学会

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 中野 博文  /  講演日: 2012年02月15日 /  カテゴリ: 見学会  /  更新日時: 2012年10月15日

化学部会(2012月度)見学・研修会報告

  時 : 2012215日(水) 14:0016:30
  所 : 地方独立行政法人大阪市立工業研究所
テーマ : 見学・講演会
 

講演 大阪市立工業研究所の概要、および研究事例の紹介 

   中野 博文 地方独立行政法人大阪市立工業研究所 生物・生活材料研究部長 農学博士

1.設立目的と沿革

当研究所は1916年の設立である。当時、公設工業試験場は10あまりの府県に設立されていたが、試験・分析を主目的としており、研究を業務の一つとしたのは東京に続いて2例目であった。その後変遷はあったが20084月に地方独立行政法人に移行し、工業に関する研究・調査・普及、工業技術に対する試験・研究・調査、企業からの支援依頼への対応、施設と設備の供用などを行っている。

企業支援業務の件数(平成20年度)は、技術相談19,434件、依頼試験7,369件、受託研究1,801件等である。これを研究員一人あたりに換算すると、技術相談が237件(ほぼ11件)の実績となる。また、支援対象は市内を中心とした中小企業が70%を占める。特許の保有や実施の件数は全国1であり業務に伴う収入も上位である。

研究は5部体制(生物・生活材料研究部、環境技術研究部、有機材料研究部、電子材料研究部、加工技術研究部)をとっている。利用分野別に見ると図1に示すような分類ができる。

     図1 利用分野別 テーマの分布

2.研究事例の紹介

本日は、生物・生活材料系を中心とした事例を紹介し、設備の一端を見学していただく予定である。技術開発分野では生体触媒の利用を中心とした繊維加工や機能性化合物の研究、材料開発分野では食品・化粧品素材、バイオ燃料、機能性界面活性剤、分子認識材料などの開発研究に加え、分析・評価方法の開発を主体としている。

バイオ分野における研究とその実用化の成果は、1939年の細菌アミラーゼの工業生産に始まる。その後、酵素法による異性化糖の工業化、夏みかんの苦味抜き酵素の開発、う蝕(虫歯の原因となる歯の腐食)防止オリゴ糖や乳菓オリゴ糖の工業生産など、多くの実績を上げてきた。

1) バイオディーゼル燃料(BDF)の酵素法による製造

BDFの酵素法による生産を紹介する。広く普及しているアルカリ触媒法と較べると、長所は常温・常圧・中性で製造でき、副生物であるグリセリンのリサイクルが可能であり、脱水や水洗などの前後処理工程が不要であることなどが上げられる。短所は触媒である酵素(リパーゼ)が高価であることと、反応時間が1時間程度に対して数時間から1日必要なことである。

    図2 固定化リパーゼをもちいた脱酸廃棄物のBDF化

酵素法の利点は、油脂工場で植物油を生産する際に発生する脱酸廃棄物(アルカリ油宰、ダーク油)や、非可食性油脂(アブラヤシ)など遊離酸を含む原料への適用が可能なことである。BDFにするためのメチルエステル化工程は、メタノール固定化酵素を使ってBDF変換率98%以上であり、酵素も100日以上利用可能である。コストについては、品質的にアルカリ触媒法に劣らないBDFを1015/Lで加工できる。

2) 機能性リン脂質、ラクトピオン酸の生産の製造

ドコサヘキサエン酸(DHA)の機能性はよく知られているところであるが、リン脂質化することによりリボソーム調整用や乳化剤としての活用を期待できる。製造にあたり、第1段階として大豆や卵黄のリン脂質を酵素による加水分解でリゾリン脂質とする。第2段階では、酵素的エステル化(固定化リパーゼ・無溶媒)又は化学的エステル化(DHA-Cl・有機溶媒中)により行う。酵素を利用する結果、位置特異性・高収率・着色のない製造を実現できる。 

    図3 DHAリン脂質

ラクトビオン酸はラクトース(乳糖)の微生物や酵素による酸化で製造する。ラクトビオン酸は良好な味質を持つ高水溶性のミネラル塩に加工できるため、Caの吸収促進、腸内細菌の改善などの生理機能を期待できる。

    図4 ラクトビオン酸

 

研究所見学

1.生分解性評価施設

化審法の評価をはじめとして化学物質の生分解性の評価は大切である。ポリ乳酸などの分解性評価はコンポスト条件で45日間行う。分解により発生したCOをソーダーライムの質量増加で把握できるように工夫した装置の原理と測定方法について説明を受けた。

化審法による分解性評価は活性汚泥条件で行う。消費した酸素を連続的に把握するための工夫を加えた装置について説明を受けた。発生したCOをソーダーライムで除去し、減った体積に相当するOを水の電気分解によるOで補充する際に必要となる電気量で評価する。

2.次世代光デバイスの評価施設

20114月に自主財源で新設した設備である。光源のLED化が急激に進んでいることから光源設備(最大40W型蛍光灯の大きさ)の評価用に設置した。この装置はスペクトルの分析、360度方向の照度の測定が可能であり、中小企業のこの分野への新規参入を支援する。

 

質疑応答

Q バイオ資源として藻類を利用する方法に期待が持たれているが、どう考えられるか。

A 栄養源が何か、増殖速度はどうかなど、種々の要因を考える必要がある。研究が進み淘汰されて来ているので、有望な方法が残ると考える。

 

Q 非可食性油脂についてもう少しくわしく説明して欲しい。

A ジャトロファ(ナンヨウアブラギリ)の実から得られる油脂が注目されている。毒性があり食用に適さないため食用油脂と競合しないことと、植えた翌年から実を得られることから有望視されている。問題点は遊離の脂肪酸を含むため、一般的な方法ではメチルエステル化が難しいことである。酵素反応の利用の他にも、有望なバイオディーゼル製造方法としてメタノール蒸気の利用などの方法が提案されている。

 

Q 機器の校正や管理はどのようにして確保しているか。

A 温度計、天秤、材料試験機などは、計量法に基づき国家標準にトレーサブルな標準を用いて自主的な定期点検を行っている。また、その他の特定計量器も計量法に基づく管理を、専門の委員会を設置し、組織的に実施している。

(文責 藤橋雅尚)


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