産学連携で活かす、セラミックナノ中空粒子の不思議な性質

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 藤 正督  /  講演日: 2013年01月25日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2013年06月16日

 

繊維部会・化学部会(2013月度)公開講演会報告

  時 : 2013125日(土) 13:3016:30
テーマ : 第43回公開講演会
  所 : 大阪産業創造館

 

講演 産学連携で活かすセラミックナノ中空粒子の不思議な性質

藤 正督  名古屋工業大学教授 工学博士

はじめに

私の研究は地球規模での問題解決の切り口として、エネルギー面、資源面、環境面が考えられる中で、資源面から切り込んでいる。対象は材料であるので、表面積、粒子の分散、粒子の形式が機能の評価に影響し、特に微粒子を扱っているため、多孔体、中空粒子、粒子の分散、製造プロセス(界面科学的アプローチ)を重視して、機能を総合評価している。本日は中空ナノセラミック粒子に関する研究と、産学協同の成果についてお話しする。

1.中空粒子の性質について

中空粒子の内部空間を考えてみると、図1のように粒子が大きい間は内部が空気で満たされているが、小さくなっていくと、内部にある空気の分子数が少なくなるため、外部の気体と同じ挙動を示すことができなくなる。さらに小さくなると空気分子も内部に入れない状態?となる。このような状態を中空の球で考えると、内径10nmの時、内部の空気分子は25個程度である。

      図1 サイズ効果の概念図

分子の存在確率としては通常の空気と変わらないが,この様な少ない分子数で通常の空気の性質を示すと考えにくい。したがって狭い制限された空間では、ミクロンサイズの中空粒子ではなし得ない特異な性質が現れてくることが予想される。

ここで空気の平均自由工程を考えると、その距離は常温、常圧で約70nmと計算できる。一つの目安として70nmの数倍の大きさ以下の内径になると、通常の空気としての挙動を示すことができなくなくなることが予想される。これが一因で、ナノメーター領域の空間を持つことで中空粒子は、低熱伝導性、低誘電率、高抵抗など特異な物性もつ、多くの可能性を秘めた粒子である。

2.ナノ中空粒子の合成と物性の研究

中空粒子の合成法として、有機物粒子テンプレート法、エマルジョンテンプレート法、静電微粒子化法、噴霧熱分解法などがある。この中でナノ中空粒子の製造に適した方法として有機物粒子テンプレート法が上げられるが、当研究室では無機物粒子テンプレート法を考案した。

無機物粒子テンプレート法は、炭酸カルシウムの結晶をコア粒子とし、ゾルゲル法でシリカ被覆した後、酸で炭酸カルシウムを溶出する方法であり、図2はキュービック状のカルサイトを、テンプレートとして合成したナノサイズシリカ中空粒子である。
この中空粒子は、一般の中空粒子が球形であるのに対してユニークな形状であり、有機物テンプレート法に比べて特異物性を発揮する可能性が高く、環境にも優しい製造方法と考えている。

      図2 ナノサイズシリカ中空粒子

この製法の有利性は、
  ①テンプレートとして、カルサイト、アラゴナイ、バテライトなど多種類の結晶形を選択できる
  ②結晶面の持つ界面エネルギーの違いに起因する晶癖を中空粒子の内側に転写できる
  ③弱い酸でコア物質である炭酸カルシウムを溶解除去できる
  ④原料の再利用が可能である
などが上げられる。

ナノ中空粒子の物性を調べた結果、外表面の吸着は普通のシリカと同じであるが、内面吸着により比表面積が大きくなっており、内外をつなぐ細孔は窒素分子34分子のサイズであることがわかった。また、界面活性剤をテンプレートとしてシェルに数nmのメソ孔をあけることにも成功しており、機能性のカプセルや反応担体としての利用に対応できる可能性を持っていることがわかった。

3.ナノ中空粒子の工業的製造法の開発と、機能化の研究

用途の開発にあたり、kgレベルのサンプルが必要であるが、実験室では2g程度の製造がやっとのため、産学連携で製造研究を行った。苦労したこととして、粒子の凝集性に起因して固まってしまうことへの対応が上げられる。製造方法の開発は、ベンチャー企業が中心となった研究開発グループ(単に情報収集を目的とする企業には参加をご遠慮願った)を構成して進め、約8年がかりで工業的な量の生産が可能となった。

機能の付加については大学が中心となり、スズなどとの錯体化による導電性の付与、CO2バブルを利用した表面構造の改質、粒子形状や大きさなどによる品質への影響を研究中である。

4.ナノ中空粒子の応用を中心とした材料開発

応用開発は、まずアルミ板の防蝕処理(中空粒子の絶縁性を利用し、有害なクロムを利用する従来法を代替できる防蝕性ハイブリッド膜を形成する処理法)を目指した。結果として、有機塗料法による防蝕膜の1/10の厚さで防蝕でき、耐久性もあることを確認できている。

アルミ防蝕の開発過程で、表面がネタネタした感じの失敗品ができたことをきっかけに、湿った手の場合ハイブリッド膜が滑り難くなる効果のあることがわかった。この物性の活用を検討した結果、バレーボールの公式球(図3)として採用され、北京オリンピック以降の国際試合球となっている。この様な用途の開発は大学では思い至らず、産学連携のたまものであると感謝している。

     図3 世界バレーボール連盟公式球

最後に、当初の開発目的であった断熱性に関する研究について触れたい。材料中に導入した空気層の厚さを可視光波長(380780nm)の1/2以下にすれば、熱伝導率がポリウレタン樹脂の1/10になり、しかも透明性を付与できることがわかった。演者の研究室で窓ガラス用の透明断熱フィルムとして予備的な実証実験を行った結果、エアコンの消費電気量を削減できる効果があることを確認した。今後、この方面での活用も期待している。

質疑応答

Q 透明フィルム用には、マトリックスの近いものをコーティングさせるのか。

A その通り。自由に動くことが可能な直鎖構造でC12より長いものが適しているようである。

Q ゾルゲル方式でのコーティング製造と聞いたがそれで良いのか。

A アモルファスシリカの場合はこの方式が作りやすい。

Q 防蝕塗料の場合、ミクロ孔の大きさは影響しないのか。

A 影響はない。ただし閉孔したい場合には加熱により可能である。

Q バレー球への採用は種々の物性の内、どの物性で決まったのか。

A 選手による官能検査の結果、最も滑り難かったことが決め手であったと聞いている。

Q 導電性のあるコーティング膜の製造は可能か。

A まだ不十分であるが、酸化スズを利用した方法で可能と考えている。

Q ナノ中空粒子の強度や、靱性などの基本データはどの程度揃っているのか。

A まだデータは少ない。ただし、セラミックスの破壊開始源より中空粒子の空間はかなり小さいので、これが強度に直接関係するとは考えていない。

文責 藤橋雅尚    監修 藤 正督 


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