シェールガス革命

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 末利 銕意  /  講演日: 2014年04月17日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2014年05月09日

 

近畿本部 化学部会(20144月度) 講演会報告

  時 : 2014417日(木) 18:3020:00
  所 : 近畿本部 会議室

講演 :シェールガス革命

   末利 銕意 技術士(化学、総合技術監理部門)

1.シェールガスとは

シェールガスとは頁岩(シェール)層から採取される天然ガスのことである。在来のガス田は図1の左上方にあるガスシール性を持つ地層に貯まったガスを採取したものであるが、その下部にあるシェールガスやシェールオイルを閉じ込めている頁岩中の天然ガスを取り出す方式であり、非在来型天然ガス資源と呼ばれる。

       1 天然ガスの種類(EIA資料より)

非在来型の天然ガスにはシェールガス以外にコールベッドガス(石炭層)やタイトサンドガスなどがある。なお、在来型ガス田の中にはシェールガスから自然に分離した天然ガスが貯まったものが多いとも言われている。

 

2.資源量の分布と技術的回収可能量

世界的に見ると未調査の地域は多いけれども、2013年現在の技術的採掘可能量の分布は図2の通りであり、石油のような偏在状態では無いが日本には殆ど無い。可採資源量の上位5ヵ国は、中国1,115兆立方フィート、アルゼンチン802、アルジェリア707、アメリカ802、カナダ707であり、諸説あるが200年程度と言われている。なお、総資源量については、中国5,102、アルゼンチン2,732、メキシコ2,366、南アフリカ1,934、カナダ1,490の順である。

   

       図2 シェールガスの2013.06資源量評価(EIA資料よりOGMECA作成)

 

3.掘削技術

シェールガスの存在そのものは100年以上前から知られていたが、在来型の採掘方法(1本の井戸を垂直に掘ってそこから出てくるガスを回収する方法)では取り出すことができなかった。近年、技術開発により採掘が可能となりシェールガス革命と呼ばれるようになった。具体的な採掘方法を図3に示す。
 ①縦穴を掘って頁岩層に到達させる。
 ②掘削方向を水平に変更して頁岩層に沿って掘削していく。
 ③パイプ内に5001000気圧の水を送り頁岩を水圧で破砕する。
 ④破砕水にはプロパント(砂のようなもの)やジェル材料を入れておき割れ目がふさがらないようする。
 ⑤掘削方向や破砕場所を変更して破砕を頁岩層の広い範囲で起こさせる。
 ⑥破砕用の水を抜いて天然ガスを回収する。  

  

    図3シェールガス採掘イメージ(出所Canadian Society for Unconventional Gas

 

4.アメリカでのシェールガス

国際石油資本と言われる大手石油会社は石油の将来について危機感を持ち、新たな資源を求めていた。資源の探査や採掘の技術はアメリカが世界トップ水準であるところに、地下深く打ち込んで高圧水に耐える強度を持ったパイプを、日本の鉄鋼メーカーが持っていたことから、水平採掘技術と相まってシェールガスを採掘できた。

アメリカはもともと、天然ガスのパイプラインが発達しており、既存のラインを使用して実績6/kWh(石炭より安価)のシェールガスの販売ができるようになり、一気に天然ガス大国となった。

 

5.石油社会から天然ガス社会へ(メタンからLPGや軽油の合成)

現在は石油を軽質化することでエチレンなどを作っているが、メタンからエチレンなどを作るGTLGas to Liquid )技術により、化学製品等に利用する開発が進んでいる。
  メタンの改質  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  nCH4 + 1/2nO2 nCO + 2nH2
  FT合成(フィッシャー・トロプシュ反応利用) ・・・ nCO + 2nH2 (CH2)n + nH2O
  水素化分解  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (CH2)n + H2 C2H6+ C3H8 +

この技術については、シェルと三菱商事子会社によるマレーシアでの商品化、シントロリウム社によるディーゼルや燃料油の試験生産(オクラホマ)、シェルとサソールによる計画などがある。このように天然ガスを使った化学製品の生産技術の開発は着々と進んでおり、石油の代替として使用できる可能性を持っているといえる。

 

6.日本への影響

日本は天然ガス田が近辺にないためLNGにして輸入(4000kmを越えるとLNGの方が安価)しており、世界的に見て非常に高価である。シェールガスも同じことだが、元になる価格が安価であるメリットがあり、液化シェールガスとして1,470万トン/年の輸入を契約している(拡幅したパナマ運河経由での輸送)。安価なLNGを入手できることからエネルギー資源国同士の力関係が変わって来るなど、在来型LNGや原油などのエネルギー価格への波及も期待できる。

技術面については前述の掘削用鋼管以外でも、ガソリン車からCNG(圧縮天然ガス)車への移行などに伴う高圧タンク(炭素繊維補強)の技術、高効率の発電技術、パイプライン増強用鋼材の技術、掘削廃水の水処理技術など日本の果たすべき役割は大きく、商機を確保して欲しい。

 

7.シェールガスの負の面

天然ガスのため石炭や石油よりCO2の発生が少ないとはいえ、CO2の発生源であり温暖化の面からの課題を持っているが、ここではシェールガス特有の課題について紹介する。
 ①フラクチャリング(水圧破砕)のため大量の水を注入するが、内陸部での水の調達。
 ②水圧破砕用の水に添加する化学物質による地下水や河川水の汚染。
 ③水圧破砕に伴う地盤沈下や地震の誘発(フランスでは水圧破砕は禁止)。

さらに、地下水を使った水道の蛇口に火を点けると炎が出る例や、ガス田周辺住民からガス開発の急増に伴ってぜんそくや頭痛を訴える例があるなど、負の側面が現れて来ている。フラクチャリング水は、フローバック(一旦水を抜きガスを採取)するが、出てきた水は河川放流や、枯渇したガス田や帯水層への注入などが行われている。

環境保全の観点から、米政府としても経済効果と環境面をにらんだ規制を検討中であり、水処理して排水又は再利用する方法へと移行しつつある。この分野で日本の優れた水処理技術が活用される可能性が高い。
結論として、安価で巨大な可採埋蔵量のあるシェールガスが革命的な存在であることは揺るぎないと考えている。

 

Q&A

Q 採掘コストは石油と比較してどうか。
A 石油は恣意的価格として高く設定されているが、カロリーベースでも石油の方が高い。

Q 石油埋蔵量は徐々に増えてきたが、天然ガスの可採埋蔵量はどのように増えるのか。
A シェールガス等非在来型ガス可採埋蔵量は、地質調査が進むにつれて急激に増える。

文責 藤橋雅尚、監修 末利銕意


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