ウイルス粒子 -タンパク質の3次4次構造及びその変化-

著者: 藤橋 雅尚 講演者: 福山 恵一  /  講演日: 2015年04月16日 /  カテゴリ: 講演会  /  更新日時: 2015年05月11日

 

近畿本部 化学部会(20154月度) 講演会報告

  時 : 2015416日(木) 18:0019:30
  所 :(公社)日本技術士会 近畿本部 会議室

講演 :ウイルス粒子  -タンパク質の3次・4次構造及びその変化-

福山恵一 理学博士 元大阪大学•大学院理学研究科•教授
現大阪大学•大学院工学研究科•
招聘教授 

1.はじめに

近代細菌学の開祖であるロバートコッホが提唱した、コッホの原則(病気には一定の微生物が見いだされ、その微生物を単離できる。その微生物に感染させると同じ病気になり、病巣から同じ微生物を単離出来る)により、病気の解明が進んで来た。
しかし細菌学では対処できない病気があり、野口英世が黄熱病の病原菌の発見に取り組んだが解決できなかったことはよく知られている。

ウェンデル・スタンリーが、タバコモザイクウイルスを単離・結晶化し、タンパク質とRNAから成り立っていることを解明し、分子が増殖するという新概念(ノーベル化学賞受賞)を提唱したことにより、ウイルスという概念が確立した。

 福山1 図1 ウイルスの電子顕微鏡写真

 

2.ウイルスの増殖について

ウイルスの電子顕微鏡写真の例が図1である。棒状や球形など種々あり、右側がタバコモザイクウイルスである。生物はDNARNAの両方を持っているのに対して、ウイルスはどちらか一方しかもっていない特徴がある。(DNARNAの本数や形では1本や2本、それに鎖状のものや環状のものなど様々である)

図2はウイルスのライフサイクルを模式的に描いている。まず、ウイルス(一本鎖のRNAを外被タンパクで守る構造)が細胞に侵入する。細胞内ではRNAが外被タンパクから離れ、このRNAからRNAレプリカーゼ、相補RNA鎖、ならびに外皮タンパク質が合成される。生成したRNAを外被タンパクが取り囲むことで多量のウイルス粒子ができ、細胞外に出ていく。

  福山2 図2 ウイルスのライフサイクル例 (Essential 細胞生物学より)

 

3.ウイルスの構造

タバコモザイクウイルスの模式的な構造を図3に示す。一本鎖のRNAをサブユニットタンパク質が囲み、サブユニットがらせん状に積み重なる構造である。サブユニットタンパク質だけだとリング状になるが、RNAが芯になることによりらせん状につながって、棒状になる。

 福山3  図3 タバコモザイクウイルスの構造 : Klug&Caspar, 1960

図1の左側は球形のウイルスであり、サブユニットタンパク質が正20面体を形成して、RNAを取り囲んでいる(サブユニットが3つ集まった三角形が20枚集まっている)。
正20面体の場合サブユニットタンパク質数は3×20=60個となるが、多くのウイルスではサブユニット数は60個より多いことがわかっていた。(演者らが研究したアルファルファモザイクウイルスでは、粒子の両端が正20面体、中央部が図4左のような対称をもった棒状をしている。)

      
      図4 疑似等価とtrianguration number : 福山恵一,タンパク質 核酸 酵素,Vol.52,11063-1068(2007)

サブユニットタンパク質(Fと表示)3個を含む三角形を全て5回対称軸ばかりで構成すると、図4右上の様な粒子になる。一方、全てを5回対称軸にするのではなく、図4左で二番目に近い6回対称軸を5回対称軸にすると(図右下のように6回対称軸と5回対称軸を組み合わせると)、より大きな容積を持つ粒子になる。

ここで三角形の中で少しだけコンフォメーションが異なるFを、3色(赤・緑・青)に分けて考えて見る。5回対称軸の箇所では青色のFが集まり、疑似6回対称軸では緑と赤が交互に配置されている。この様な60面体を形成することが可能であることから、大きなRNAを持つウイルスが球形のタンパク質の殻の中で存在できる。

 

4.タバコネクロスウイルス(TNVの構造解析

演者らが構造解析したタバコネクロシスウイルスで、具体的にサブユニットの構造がどのようになっているのかをお話しする。X線結晶解析で決定したサブユニットタンパク質の原子数は22,665であった。サブユニットタンパク質のアミノ酸配列は同じであるが、コンフォメーションは少し異なっていた。すなわち、ABCの3種類があって、CサブユニットだけがN末端部分が長く一定の構造をとっており、BやCのサブユニットは乱れたコンフォメーションをとっていることがわかった。

サブユニットの2次構造を見てみると、全てのサブユニットはゼリーロールと呼ばれるモチーフで、多くのウイルスに共通していた。このゼリーロールのN末端側にあるセグメントの働きの結果、6回対称のサブユニット集合が可能となっている。(図5の紫色の部分)

   福山7 図5 CユニットのN末端の働き : 化学 61, 36-37 (2006)

サブユニットタンパク質の間にはCaイオンがある。CaイオンをEDTAで除去すると、ウイルスは粒子を形成できずばらばらになる。ここにCaイオンを与えてやると、サブユニットはふたたび粒子を形成する。RNAを壊すとどのようになるか試したところ、数は少ないが同じ大きさの粒子が出来ることがわかった。

一方、N末端領域を持つCサブユニットタンパク質からN末端領域を除去し、Caを加えて見たところ、サブユニット数60の小さな球形粒子が出来た。この粒子ではサブユニットタンパク質はすべて同じコンフォメーションをとっている。これらの結果から、ウイルスはN末端の働きで、自らのRNAを収容できる大きな容器を作っているといえる。

 

質疑

Q 4次構造とは何か、構造を変えると性質は変わるのか。

A サブユニットタンパク質は3次構造を持っており、その集合体様式は4次構造と称している。条件を変えると異なる4次構造を取ることが出来、性質も変わる。

Q 結晶になるということは、生物ではないのか。

A 宿主生物無しでは増殖出来ないので、生物では無い。

 文責 藤橋雅尚、監修 福山恵一


著者プロフィール 著者
> 
主な経歴
> 
資格
> 
その他
>