最近の環境エネルギー問題と今後の動向

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 久米辰雄 /  講演日: 2015年6月20日 /  カテゴリ: 環境研究会 >講演会, 化学部会 >講演会  /  更新日時: 2015年07月17日

 

近畿本部 繊維部会・化学部会・環境研究会(20156月度)講演会報告

2015620日(土) 13:3017:00
アーバネックス備後町ビル 3階ホール

講演 最近の環境エネルギー問題と今後の動向 -世界と日本のエネルギーの現状-

   久米辰雄 京都工芸繊維大学 長もちの科学センター 特任教授
大阪ガス株式会社 技術顧問

1.はじめに

環境問題はグローバル化しており、CO2削減と省エネルギーの必要性、エネルギー問題などに関して順次お話ししていく。まず、温暖化であるが温室効果ガスの影響だけでなく自然現象由来の気候変動の影響も受けていることを申し上げる。しかし人為的要因による変動は緩和できるものである。

温暖化の大きな要因は世界的な人口増加を受けた、過耕作・過放牧・森林伐採・エネルギー利用増が大きな要因である。特に化石燃料の使用増が顕著であり、現在のCO2濃度400ppmに対して放置すれば1000ppmを越えることが見込めるので550ppmまでに押さえようとしている。2100年には、最低でも今より1.8℃の上昇が予測されており、異常気象・食糧難・水不足・健康被害などが予測される。京都議定書で一定の枠組みこそかかったが、アメリカやカナダの離脱、途上国扱いとなって大きなメリットを受けた中国や韓国の存在など、問題点も大きかった。その意味で、2020年以降の枠組みを決めるCOP21は重要である。

日本は20156月のサミットにおいて2013年比で2030年度に26%削減を打ち出すことを政府決定した。各国の提案をこの設定条件に換算すると、アメリカ(1821%減)、EU24% 減)であり遜色はない。なお、中国は2030年をピークにすると言っているが基本計画と具体的な数値目標の提示が必要である。

2.地球温暖化について

世界の気温は、春・冬で0.740.75℃/100年、夏・秋で0.660.64℃/100年上昇しており、日本の気温も1.14℃/100年上昇している。但し図1のように、ここ20年は温度上昇が停滞している。

  

 図1 世界の平均気温推移(日経エコロジー東京大学大気海洋研究所などの資料を利用)

温暖化懐疑論として、人為的に排出された温暖化ガスよりも水蒸気(20,000ppm)の方が影響が大きいとの説がある。実際温暖化に寄与している割合は水蒸気のほうが大きいが、気温上昇への寄与にCO2の増加はボディブローのように効いている。水蒸気がカバーしていない放射スペクトルの波長域をCO2がカバーしていることを配慮して計算(国立環境研究所)すると、やはり、今後の温暖化にはCO2の影響が非常に大きいと言える。なお、地球表面に太陽から入射するエネルギーの量は、他のエネルギーより圧倒的に大きく、例えば化石燃料から発出するエネルギーは、その0.02%に過ぎない。この太陽からの熱を地球は毎日、ほぼ同量、遠赤外線領域の波長に変えて放散しているが、この領域の波長にCOは大きな影響を与えて、遠赤外線の放散の一部を吸収し熱がたまる影響を与えている。

自然現象による氷河期と間氷期の繰り返し、太陽活動の変動などの影響も大きいが、人的要因によるものの影響も大きいということは事実である。ちなみに気温上昇の影響は、1.82.0℃を越えると急に大きくなると予想されており、特に水不足・マラリア罹患・食糧難などが急激に増加すると予測されている。


3.IPCCの第5次報告書と、COP21

IPCCは国連のUNEP(環境と世界気象機関)により設立された政府機関であり、世界の気象の専門家が、科学技術的観点からの気候変動に対する最新の知見を取りまとめ、オフィシャルな情報を提供する機関である。IPCCが昨年、第5次評価報告書を作成し、観測事実から世界での気温の上昇は疑う余地がないこと、深さ700mまでの海水温の上昇は確実であり、3000m以深でも水温が上昇している可能性が高いことなどを報告した。観測結果に基づきRCP(代表的濃度経路モデル)を提示し予測した結果(図2)に示すように、代表的な4つのRCPシナリオとしてまとめていることはご承知のとおりである。

 図2 RCPに基づく2100年の放射強制力等の予想(IPCC資料)

京都議定書(2012年まで)によるCO2削減の枠組みは終了したが、不参加国や優遇国が多かったことなど公平ではなかった。例えば日本は一人あたりのCO2排出量で見るとドイツより優秀である。一方、中国は日本の7倍も排出しているのに途上国と主張している。省エネの進んでいる日本は排出権の購入(CDM)などで達成したが、このCDMの大半はインドや中国に集中し他の途上国は恩恵が少なかった。このため2020以降、排出権はまだ少し課題はあるが、幅広い途上国と排出権を買う側にもメリットがあり、CO2削減の実効性も高いJCM(Joint Credit Mechanism)という方法に変更されていくと予想される。このように義務のない国、義務を果たさない国の存在など京都議定書の枠組みは限界であった。2020年以降の新たな枠組みについては、今年開催されるCOP21を受けて方向付けられる予定である。

4.最近の日本のエネルギー事情と政策

2011年の震災を受けて基本的な考え方が変わった。省エネの徹底・エネルギーの地産地消・化石燃料の効率的利用がベースであり、3E(安定供給・経済効率性向上・環境負荷低減)S(安全性)を加え、さらにレジリエンスやBCP(事業継続計画)を加味して、多様化・多層化した柔軟なエネルギーシステムを目指すことになった。原子力は重要なベースロードであるが、可能な限り低減し2030年に2005年度比でCO226%低減を目指すことになった。


 図3 新エネルギー計画に基づくエネルギーミックス最終案(2015.06.01経産省)

5.原子力発電の現状

新エネルギー計画での原発比2022%はかなり難しい。すべての再稼働計画分と新設原発がほぼ100%稼働する必要があり、すべて60年稼働が必要な計画である。なお、原発の安全性については既存設備に対しても安全改良を積み重ねてきていた実績に加え、福島の事故を踏まえて基準の見直しがあり、さらに安全化されてきている。

原発には沸騰水型と加圧水型の2タイプがある。大飯などで採用されている加圧水型は、熱効率が劣り価格が高い欠点を持っているが、炉心溶融が起こりにくく冷却が容易な構造であるなど、事故を起こした福島第1の沸騰水型より安全性が高い構造であり、シビアアクシデント対策も進行している。

6.再生可能エネルギーの現状と課題

中長期的には再生可能エネルギーの大量導入は不可欠とみんなが認めている。エネルギーとして見ると、全世界で16.7%を再生可能エネルギー(半分はバイオマス)が占めているが、電力(水力を除く)に限って考えると0.9%しか占めていない。再生可能エネルギー先進国といわれているドイツやスペインでも、太陽光や風力の導入に赤信号が灯っている現状である。再生可能エネルギーは、本質的に持っている不安定性を考えると、原発に代えて基幹電力になることは不可能であり、しかも化石燃料が安価にある限りはコスト的な競争力も持っていない。

再生可能エネルギーは、供給源の密度が低いこと、偏在性、環境破壊のリスクがある他、風力発電や太陽光発電に代表される不安定電源については、変動が大きく実質稼働時間も短い。このため、常に安定電源である火力発電をスタンバイさせる必要もあり、経済的ではない。これらを考えると、再生可能エネルギーでも、バイオマス発電や地熱発電などのように稼働時間が長く、バックアップ電源を必要としない安定型の電源の普及が望まれる。さらに電気だけでなく熱を含めた効率的な利用を行うことなどトータルでの評価が重要となる。

7.シェールガス・オイル とメタンハイドレートの最近の状況について

ここ半年の状況は次のとおりである。原油価格は下落しWTIやブレント、ドバイなどで50$/bbl割れした後、60$台に持ち直して推移している。原油価格の下落を受けて、中小シェール会社が破綻し始めている。OPEC特にサウジアラビアは、シェールガス・オイルつぶしにかかっていると言われている。また、シェールを持たなかった、石油メジャーは経営が苦しくなったベンチャーを買収するチャンスととらえている。シェールガス田の掘削数はピーク時に較べて1/3になっているが、主要鉱区の生産量は前月比約12%減と見込まれる程度であり、有力鉱区の開発意欲は衰えていない。

原油価格の低迷は、シェアの維持競争、ロシアが経済事情から減産できないこと、中国経済の停滞による需要の縮小、アメリカが安価なシェールガスを持ったことによる中東からの石油輸入の激減、などが原因である。このため、しばらくは60$/bbl前後で均衡し価格上昇時も6570 $/bbl程度であると見込まれる。

8.天然ガスとシェールガスについて

天然ガスには、在来型と非在来型があり、図4に概要を示す。非在来型は採掘が難しかったが、技術の進歩により開発が進み商業生産されている。シェールガスは2000年代にアメリカ(都市部近郊や南部の燃料産業地域で幾層にも分かれて存在する有利性)で急速に開発が進められた。


 図4 天然ガスの種類

アメリカの地層は、オルドビス紀~白亜紀の間で温暖な浅瀬地域にあり、海になったり陸になったりを繰り返して多量の有機物が蓄えられており、その後のプレート移動による地圧の増加や、熱の影響を受けて天然ガスに熟成され、閉じ込められているため資源が豊富である。アメリカの全天然ガス生産量は、2011年は23ft3であるが2040年は33ft3の見込であり、シェールガスの占める割合が半量に達する見込である。

シェールガスの採掘には、掘削技術の進歩(ガス田探査・掘削・井戸の仕上げ)が大きく寄与している。特に、近年になってフラクチャの拡大技術の進歩(Hi-Way工法など)によって、収率アップ(ガスで20%、オイルで40%)が達成出来ていることに加え、フラクチャの使用減(40%)フラッキング水の使用減(60%)が達成され、生産コストが下がっている。

シェールオイル(ガス)田の探査においても、スイートスポットの考え方が分かってきた。地層が褶曲して背斜または向斜となる地形が有望であり、特に背斜構造の場合、ガスやオイルが背斜方向に移動して溜まる他、背斜の近傍では地殻変動の際、温度、圧力がかかり、シェール層中の有機物が熟成され油やガスの収率が高いスイートスポットになるので、既存油田などの近くのシェール層が有利である。

9.シェールガス・オイル革命の日米への影響

アメリカでのシェールガス・オイル増産の方向性は、大規模田へのシフト(中小ベンチャーやガス田の淘汰)、が進み、シェールオイル採取の方向にシフトしていく。関連技術としてメタン化学プラントのアメリカ回帰、電気・海運・重機・自動車・農機・製鉄・機械産業が興隆し、石油化学も回帰していくとみられ、日本にも好影響が現れるのでチャンスを逃してはいけない。

メタンハイドレート・水素についても言及がなされたが本報告では省略する。

質疑

Q 提示されたグラフの中に、縦軸気温・横軸CO2のものが無いのは何故か。

A CO2を横軸にすると相関性が得られないためである。

Q 発生したCO2の貯留技術について教えて欲しい。

A CCSCO2の回収貯留)の研究が進んでいる。夕張での石炭層でのCO2固定実証により、夕張を含む石狩平野全般での地下石炭層での固定、新潟長岡等での地下の固定岩盤層の下の滞留水層への固定、オーストラリアでの褐炭利用による、水素化とその際に分離されたCO2を枯渇ガス田や油田利用しての固定などが検討されている。

Q 原発の温排熱の海域生物への影響についてのお話しがあったが、影響はどの程度か。

A 海水冷却方式のため、周辺海域の水温が上昇することによる局地的な生物への影響はあるが、地球全体で考えるとあまり大きくない。

Q 電力ベースのCO2排出量についてもう少しくわしく説明して欲しい。

A フランス(原子力主体)とカナダ(水力主体と原子力)が、0.1kgCO2/kwh台である。ドイツは自然エネルギーの割合こそ日本よりは大きいが石炭火力を高い比率で利用しており、国としてのCO2排出係数は低くない。不安定電源である風力や太陽光発電を大量に導入できるのは、ヨーロッパ全体が系統ネットワークでつながっており、周波数変動が抑えられることや、ハックアップ電源が少なくて済み、実質、フランスの原発の電力もかなり使っている。これは地域全体の電力量が大きい分を活用して、許容出来ている内容である。

Q メタンハイドレートについて最近行われたTV放映などにみられる日本海側のメタンハイドレートなどについても説明して欲しい。

A 放送は少しセンセーショナルであったと思う。太平洋側と日本海側でメタンハイドレートの種類が違う。日本海側は、表層メタンハイドレートで太平洋側は砂礫混交層型ハイドレートである。太平洋側は、海底の地中にあるため経済コストを無視すれば、今でも既存の技術で開発が可能。日本海側は、海底表面に雪のようにメタンハイドレートがあるので、温度圧力が変動すれば海水中にメタンがガスとして拡散するため回収が困難で、技術開発が必要である。また、メタンハイドレートは薄く広く存在しており、今の小分けされた狭い範囲での開発権益ではペイしないため、開発権益の見直しも課題である。

Q 再生可能エネルギーは高いといわれているが何故か。

A 基本的にはエネルギー密度が低いことにつきる。化石エネルギーは地球が精製(濃縮)してくれているので密度が高く使いやすい。

Q 水素が次世代のエネルギーとして注目されているが、水素の危険性について教えて欲しい。

A 燃焼範囲が575%と広く、燃焼速度も他の燃料と比較して早いので危険と思われているが、拡散も早く意外と滞留しにくいので、密閉された空間以外は爆発による危険性は小さい。容器については軽くするため樹脂化の方向に動いているが、パッキンやホースの耐久性等にはまだ課題があると思われる。技術面の規制について欧米と比較して日本は厳しいため、日本も見直し要望が多数出ている。(容器の種類や離隔距離等)

なお水素は熱設備や発電利用なども望まれているが、真発熱量が他の化石燃料より低く、燃焼させると不利なため他の化石燃料より、省エネにならず、かつ価格的にもこの分野ではまだまだ不利である。燃料電池車で使う方式は、総発熱量をフルに利用できる効率が良いことや、自動車ではガソリンと比較して価格競合力が比較的近いため有望である。

Q 再生可能エネルギーは貯蔵を考える必要があり、水素貯蔵が有望といわれているがどうか。

A たとえば風力発電を例にとると、陸上は蓄電池、洋上は水素を蓄える方向が有力である。コスト面で考えると水素は現在天然ガスより数倍高くつくので不利であり、現時点ではペイできない。

Q 日本は地熱発電可能な資源量が大きいと聞いているがどうか。

A 日本は世界3位の地熱埋蔵量を持っており有力である。しかし、資源が国立公園内に存在していること、地震等で水脈が変動する可能性が高くペイが難しいこと(地熱発電は建設コストが高く、投資回収には15年間程度の安定運転が必要)、地元の温泉組合が温泉枯渇の心配があり反対するなど、ハードルが高いのが現状である。

Q エネルギー政策について、国の理解が大切であるが各国と較べて日本はどうか。

A アメリカはよい技術であれば日本の技術も積極的に採用するが、ドイツは原則自前主義である。東南アジアは風土が似ている日本の技術への評価が高く、高くても使う傾向がある(台風などの災害の多さや、高温多湿の気象条件、食文化など)。コスト差以上の技術価値があるとの認識を持っているが、現実面ではコストが課題になるのは事実である。

 文責 藤橋雅尚、監修 久米辰雄