化学物質管理士制度 ~技術士化学部会からのアプローチ~

著者: 藤橋雅尚  /  講演者: 秋葉恵一郎 /  講演日: 2015年12月12日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2016年01月10日

 

近畿本部 化学部会(201512月度) 講演会報告

  201512 12日(土) 14:0017:00
  (公社)日本技術士会 近畿本部会議室

講演 : 化学物質管理士制度  ~技術士化学部会からのアプローチ~

秋葉恵一郎  技術士(化学)  統括本部化学部会長、元住友化学

 

1.化学物質を取り巻く「国際的・国内的規制」

「化学物質管理」はサプライチェーン全体に求められるグローバルな課題となっている。
方向性は次ぎなどを上げることができ、日本企業にとっても国際競争力強化の面から、不可欠な課題となっている。
  ①ハザード管理からリスク管理へ
  ②WSSDWorld Summit on Sustainable Development)の2020 年目標という国際合意への対応
  ③成形品にもおよぶグローバルな化学物質管理への対応
  ④爆発危険性、人の健康・環境生態への影響の低減への対応

1)化学物質管理の方向性

従前は、ハザードベース管理であったが、リスクベース管理に移行している。
  リスク = ハザード(危険有害性) × 環境排出量(曝露量)
方向性は、リスクをアセスメントし許容できるレベルで管理する事であって、「上手く使え」という意味で考えたら良い。言い替えると化学物質管理は「透明性のある科学的根拠に基づくリスク評価と管理を目指す」考え方と捉えたら良い。

REACH規則、RoHS指令などでは、容器の中身に加え成形品中に含まれる化学物質の管理をも求めている。川上メーカ(化学物質等素材生産メーカ)の立場で見ると、自社の製品が最終製品のどこに使われているか、また自社作成のSDS情報等が川下でどう利用されているかを把握できないという問題がある。とは言えグローバルな化学物質管理は国際合意になっているため、既に各国での法律・管理体制の整備は進んでおり、もちろん新興国や途上国でもREACHに倣った管理体制ができつつある。

日本の化学産業の総出荷額は2008年時点で世界3位であること、国内産業においても付加価値額を見ると3位であるなど化学産業の重要性は増しており、グローバル化の下では、競争力強化の手段にREACHをてことする欧米化学と対峙するためにも日本の化学物質管理手法は重要である。

2)化学物質管理

化学物質を全く使わない製品は少ない事から、リサイクルを含めて化学物質の管理は事業と直結した課題といえ、法的に見ると化審法や化管法が整備され、国際標準に対応している状態といえる。

REACHの背景を見ると化学製品による事故が引き金になっており、1972年の国連人間環境会議を皮切りとし1992年のリオサミットを経て、2002年のヨハネスブルグ実施計画で化学物質の悪影響を2020年までに最小化すると共に、化学品の分類表示の国際的調和(GHS)を図るとされ、各国で取組が進んでいる。
すなわち国際標準のGHSを基に、物理化学的性質を16分類、健康及び環境影響を12分類定めて、各分類に入手可能なデータを当てはめ、化学品を扱うものすべて(事業者、作業者、消費者、輸送業者、救急対応者など)にSDSで情報を提供する取組が進んでいる。

日本でもJIS Z 7253SDS項目が定められるなど、国際標準に合わせた安全・安心情報の提供が進んでいる。産業界では自主的な取り組みが進められ、日化協を中心としてGPS(Global Product Strategy)に日本の国情に合わせたJIPSを開発するなどの対応を行っている。なお、EUが中心となって定めたREACH規制はヨーロッパ産業の競争力強化を目的としているので、我が国化学産業としては欧米諸国とのサービス競争の激化に対抗するためにも、自主管理の強化に努めなければならない。

化学産業としては、自社取扱化学物質の特定、製造・輸入量や用途等の把握を行い、リスクベースで自主管理すると共に、新規化学物質の事前審査方法の改正化審法対応を急がねばならない。そのためには専門部署を設置して化学物質情報の一元管理を充実させなければならない。加工メーカ、最終製品のメーカでも、化学物質を含有するか否かの把握など、ステークホルダーへの細かな対応が大切になってきている。

2.「化学物質管理士」資格の創設に向けて

化学物質の管理強化が必須となり高度の専門性が求められるので、技術士の専門性を生かすことができる国家資格としての「化学物質管理士」制度の導入を3年前から模索してきた。結果として監督官庁が複数にわたっているなど、国家資格としてのスタートは困難であると判断し、民間資格として立ち上げることを前提として制度設計を進めている。

技術士の専門性という観点から考えて見ると、専門性に差違はあるが試験での出題内容から総合判断すると、化学・生物工学・環境部門の技術士は化学物質管理に関する基本知識を具備しており、規制など法的・制度的な専門性をクリアすれば良いと考えている。

1)化学物質管理士の資格要件

2020年以降について必要条件と十分条件を設定してみると、必要条件として化学部門の専門分野に化学物質管理の選択科目合格(現在はこの選択科目はない)と考えている。なお、それ以外の化学・生物工学・環境部門の技術士については、法律や制度に関する試験への合格を必要条件とし技術問題を免除する方向となろう。十分条件は実務研修(e.g.40時間または企業での実務経験2年)後、新規に立ち上げる一般社団法人 化学物質管理士協会の行う試験に合格することと考えている。

2020年頃までの経過措置として、次の方に資格を授与する方向で考えている。
  ①技術士(化学・生物工学・環境部門)の有資格者
  ②所定の化学物質管理実務セミナーを受講した者
  ③所定の実務経験者
すでに公益社団法人 日本技術士会化学部会内に「化学物質管理研究会」が立ち上がっており、2016年に一般社団法人 化学物質管理士協会を設立して、試験の実施・資格認定・コンサルティング等を実施することを努力目標として準備を進めているので、是非同研究会に参加して欲しい。

2)化学物質管理士の活躍分野

化学物質管理を生業とする企業が存在しており、有資格者になればサプライチェーンを構成する各企業へ役務提供することができる。将来的には図のように、各段階企業のCSR部門や工場に加え、サプライチェーン上にある中堅中小企業への支援、さらには経産省・厚労省・環境省などでの業務やNITE等の法人などでの業務など、幅広い分野に役務を提供することを考えている。

3.Q&A

Q MSDSSDSに変更となったのはなぜか。
A 国連 GHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に合わせた。

Q REACHは具体的に何をしようとしているのか。
A データを共通にするという障壁を作って、優れた化学物質管理を求める方向性である。

Q 代理人制度について、諸外国ではどの様にして決めているのか。
A 専門性を標榜して手を上げれば誰でもなれる。

Q 新しいものを作りPat.を取っても安全性確認に時間がかかって、Pat.が切れてしまうのではないか。
A ヨーロッパはそのあたりについて、上手にルールを作ったり変えたりしている。

以下は化学物質管理士に関する質疑である。

Q 化学物質管理士の法的な位置づけについてどの様な方向を目指しているのか。
A GMPには薬剤師が必須であるという関係のような、関係を目指している。

Q 混合物の場合など、専門分野外への対応が多発すると考えるがどう考えているのか。
A 個人では困難であり複数での対応、例えばコンサル方式などでの相乗効果を考えている。

Q 川上企業→中堅企業→中小企業の順に流れていく例の場合、取りあえず中堅を対象と考えているのか。
A 途中で化学企業ではない企業の入る例も多く、ニーズを見て考えることになる。

Q 繊維部門は化学の要因を大きく持っているが、なぜ対象に加えていないのか。
A 環境と化学、総合化学物質管理科目としての観点から技術士試験問題を評価すると、繊維部門を加えることは

  難しいと判断した。なお、東京は繊維部門の技術士が少ない事の関係している可能性もあり
  プロジェクトに参加して欲しい。

Q リスク管理については総合的な考え方も必要であり、総合技術監理部門の資格者も関連すると考えるが、
  いかがか。
A 総合技術監理部門は人の管理が主体であり、ものの管理ではないと考えている。

Q 化学物質管理士ではなく、労働衛生や廃棄に関するまでの幅広い対象を包含した資格にする考え方はないのか。
A 民間資格は数多くあるが、技術士資格と関連性を持たせたいという考え方のため絞り込んでいるところはある。

Q 業務を行うには責任が必要である。共同責任を含めてどう考えているのか。
A 有限責任を求められると考えている。保険に入ることをお勧めする。

Q 新たな資格は「それって何」というレベルである。ニーズ量やパイの大きさはどうか。
A 業務代行を行える資格にする事を目指しているが、潜在ニーズを掘り起こすにはパワーが必要であり、
  ご協力をお願いしたい。

Q 特定のアゾ染料を使用した繊維などについて、20164月から販売規制が始まるため、説明会は満席であった。
  この分野での需要についてどう考えるか。
A 関連してくると考える。

文責 藤橋雅尚 監修 秋葉恵一郎