OCT医薬品の有効成分定量について

著者: 藤橋 雅尚  /  講演者: 上地 里佳枝 /  講演日: 2017年9月9日 /  カテゴリ: 化学部会 > 講演会  /  更新日時: 2017年10月12日

 

近畿本部 化学部会(20179月度) 講演会報告

  201799日(土) 15:0017:00
  近畿本部会議室

講演1:OCT医薬品の有効成分定量について

上地 里佳枝 小林製薬株式会社 中央研究所 評価研究G

1.はじめに

大学では、シアノバクテリアを溶菌するシアノファージに耐性を持つ株について、耐性の発揮に関連する膜タンパク質の研究を行った。修士課程修了後小林製薬に入社し、主にOTC医薬品の有効成分の定量に関わる研究開発など、化学に関する業務を担当している。

2.OTC医薬品について

1)医薬品の分類

医薬品は、医療用医薬品とOTC医薬品(Over The Counter)に大別でき、両者の違いをまとめたものが表1である。最大の違いは購入に際し、処方箋が必要か不要かである。

   上地1 表1 医療用医薬品とOTC医薬品の区別

OTC医薬品は一般用医薬品ともいわれ、次の4類に類別される。
第1類        特にリスクが高い
指定第2類     第2類中で特に注意が必要
第2類        比較的リスクが高い
第3類        比較的リスクが低い

一般の人が自らの判断で使用することから、次の考え方で規制されている。
①有効性と安全性を確保できる処方とすること
②効能・効果について、その意味が分かるような記載
③用法・用量がわかりやすい剤形とし、使用量を記載
④使用上の注意を理解しやすく記載

⑤症状の改善がないときは医師や薬剤師に相談することの記載(連用させない)。

2)OTC医薬品に関する規制と問題点や競争について

OTC医薬品は日本薬局方に準じて試験・申請を行い、承認を得る方式であり全部で8区分に分かれている。8区分の中で新たな有効成分医薬品を使用する場合、医療用医薬品に使われている有効成分を一般用医薬品に初めて配合する場合、リスク区分2以上の有効成分の追加・削除などの場合は、臨床試験が必要である。しかし、リスク区分3の有効成分の追加や削除の場合、ならびにゾロ品などの場合は原則として臨床試験不要である。

表1の一番下の行に記載しているとおり、限られた有効成分のみ使用していく中で競争に勝つためには、特色の出し方が課題となる。価格はもちろんであるが、複数の有効成分の割合や、配合剤の工夫などが行われるため、処方が複雑化してきている。クリーム製剤の例で示すと、医療用は単一の有効成分に添加剤を加えて9成分の処方であるが、OTCの場合は6種類の有効成分に添加剤を加えて24成分の処方になっている。 

3.OTC医薬品の成分定量について

OTC医薬品であっても、有効成分の定量を含む、その有効期限における安定性を保証する必要がある。有効期限については組み合わせによる劣化の確認であり、加速試験で行う。定量法については処方が複雑であることに伴う問題点や、競争が激しいことによる開発期間の短期化という課題がある。

図1に示すように(安定して)測定できることが絶対条件であるが、危険度の高い試薬を使わない方法であることも申請の要件となる。加えて継続して生産していくためには、手間がかからず、特殊な方法でないなどの条件を満たすことも求められる。とくに、剤形が特殊である場合などは、前処理で分析の対象成分を確実に分離することが重要となる。

   上地2 図1 定量法の設定における留意点

定量試験法設定のフローは概ね次である。依頼⇒情報収集⇒分析条件の設定⇒前処理法設定。分析条件については、ほとんどの場合液体クロマトグラフィー(LC)が採用され、その条件設定がキーとなる。LCを選ぶ理由は、特異性の高さと安定性、条件の設定が多様で柔軟性が高いことに加え、情報が豊富、機器が普及しており且つ終夜分析が出来るなどのメリットによる。なお、局方でLCの設定がない成分でも、製剤における定量法をLCで設定することは可能である。

条件設定に際しては、可能な限り多数の成分を同時に定量することが求められる。そのためにはカラムの選定、溶離条件の設定、濃度やpH の設定など多くの要因がからみ難しい選択が求められる。例えばイオン交換クロマトグラフィーでの分析が難航したため、条件をしらみつぶしに試したが、結果から考えると等電点に関する情報不足が原因であり、反省点である。

LCは、シリカゲルを担体とするカラムを使用することに起因して塩基性物質への適用は難しかったが分析可能pH域が広がっていること、イオン性物質に対応するカラムの出現、超高圧タイプによる分析時間の短縮、などの改善がなされている。結果として難度の高いOTC医薬品への対応が可能となってきているので、製剤の分析で活用し技術を高めていきたい。

質疑

Q:分析法の開発(確立)を急がねばならないのはなぜか

A:申請が遅れると、その間に競合品のイメージが定着してしまうので、対抗品が急がれる。

Q:分析法開発にどれくらい時間がかかるのか。

A:有効成分が4~5個の時は約1週間、事前調査・データーチェックを含め1ヶ月程度である。

Q:貴社のアンメルツはOTCと思うが、医療用もあるのか。

A:ご指摘の通り、医療用はない。

Q:LCで特異ピークが出た場合どうするのか。

A:目的は有効成分の定量であり、その他ピークはあまり問題にならない。

Q:LCマスを使わないのか。

A:有効成分の定量用としては高価であるなど、まだ汎用性がないためである。

Q:高感度の機器が開発されていくが、どのように対応されているか。

A:有用であれば、取り入れていく。

Q:カネボウ化粧品の様な副作用の例についてはどう考えるか。

A:カネボウの例では自社開発の有効成分(医薬品でない)を使っており、また、副作用が出るのに長時間がかかった。当社の場合は既存有効成分のみで構成しているので、類似事例が出る可能性は極めて低いと考えている。

文責 藤橋雅尚 監修 上地 里佳枝