インターシップ支援活動(対象:技術系の学生・生徒)の紹介 2.兵庫県立大学工学部のインターンシップ支援活動

著者: 藤橋 雅尚 講演者:  /  講演日: 2008年01月06日 /  カテゴリ: 産学官民  /  更新日時: 2011年03月07日

 

2.1 インターンシップの目的や意義の整理

大学におけるインターンシップの主要な目的は、「学生がこれまでイメージとしてだけでとらえていた 企業像を実地に体験 し、社会人としての在り方を学び、同時に 大学における学習の必要性を再認識 させること」にある。下記は、学生と企業が得るものの整理である。

学生がインターンシップから学ぶ事項

① 働くことの意義の実感と、物づくりの大切さの習得
② 専門知識の必要性の再確認と、その活用法の習得
③ チームワークの大切さと、職場でのコミュニケーションの重要性の習得
④ 仕事に対する責任感と、緊張感の習得
⑤ 安全や衛生に関する知識と、取組みの習得

企業がインターンシップに取り組む意義

① 学生に企業の実態を理解させる機会を得ることと、学生の気質の把握
② 新しい刺激を社内に吹き込むことによる、社内への波及効果
③ CSR ( 企業の社会的責任 ) を果たしている企業としてのイメージアップ
④ 大学との連携の強化による技術力の向上


2.2 取組の開始

兵庫県立大学におけるインターンシップの支援活動が、兵庫県技術士会の実施したインターンシップ支援活動の最初の事例である。この活動は兵庫県技術士会が、兵庫県立大学・工学部から次の相談を受けたことから始まった。

「大企業は独自にインターンシップを実行しているが、将来性の高い中小規模の企業でのインターンシップを学生に経験させたい。」

   兵庫県立大学のインターンシップにおける目的を整理すると次のとおりである。

① 学生は就職に際して、企業の知名度とかマスコミの宣伝、あるいは両親の勧めなどを参考として決めることが多い。
② しかし就職後、想像したり目的としていた職場と、現実の職場との差に違和感を持って職場を去ることも珍しくない。
③ このような不具合を未然に防ぐ手段として「学生が企業等において、自らの専攻や将来の就職に関係した実習・研修的な就業体験」が必要である。
④ 兵庫県立大学としては就業体験の場を、できれば中小規模の技術系企業での実習を中心として行いたい。  

相談を受けて兵庫県技術士会はインターンシップ支援活動への取組を始めることとし、対象企業を中小規模の製造業に限定して紹介を行った。結論を先に述べると、協力いただいた企業は全て好意的であり、体験した学生の評判も良好であった。


2.3 兵庫県立大学のインターンシップの特徴

  このインタ-ンシップの持つ大きな特徴は、次に示す3項である。

1)受入企業を製造業の中小企業に限定

学生は就職先に大企業を選ぶことが多いがミスマッチも多い。とは言っても見ず知らずの中小企業にいきなり就職を勧めるのも説得力に欠ける。このため大学としてインターンシップを本来の目的に加え、 中小企業の特徴を学生に肌で感じてもらう場 としても位置づけた。

2)運営支援組織の設定

インターンシップの実施にあたって、大学と企業との間の調整を図り、双方の負担の軽減を図るとともに、大学、学生、企業の持つ戸惑いや不安感の解消などを主な目的とする支援組織(以下、運営支援機関)として、兵庫県技術士会が参加した。

運営支援機関の役割は次のとおりである。

① 技術力のある受入企業の開拓と、受入体制整備の支援
② 大学、学生、企業がインターンシップで使用する書類の標準化
③ 履修学生の事前教育
④ 履修期間中および履修終了時における学生指導の支援

3)技術士法の規定の活用

技術士法は技術士に 秘密保持 を罰則規定付きで課している。この法律を説明することにより、大学はもとよりすべての中小企業が、運営支援機関の兵庫県技術士会と秘密保持契約を締結するなどの煩わしい作業を回避することができた。


2.4 兵庫県立大学のインターンシップ支援活動

2.4.1 手引書の作成

最初に着手したのが手引書の作成である。手引書は“企業向け”と“学生向け”の2種類を作成したが、企業向けは中小企業を念頭に置いて作成した。内容はインターンシップを実施するにあたっての要領を示すことと、チェックリストとしての性格を持たせることとし、各種書類(企業紹介、誓約書、報告書など)の様式作成なども加えた。学生向け手引書は、企業向け手引書のうち学生に必要な部分を集約したものである。

運営開始に先立ち大学と協議を重ね、上記二種類の手引書を約1年かけて作成した。

 

2.4.2 履修学生の募集と受け入れ企業の開拓

兵庫県立大学はインターンシップが選択科目であるため、まず履修学生の募集が行われる。技術士は応募した学生数に対応する企業数を確保するため、分担して受入企業の開拓に着手し、“インターンシップ企業紹介書” “カタログ”、“会社案内”などを入手した。

大学ではこれら資料を学生に公開する一方、企業説明会を開催した。企業説明会では、担当の技術士が書類では得にくい情報を提供し、履修学生はこれらを参考にしてインターンシップ先の企業を選択した。


2.4.3 事前教育の実施

本システムでは、人手に余裕の少ない中小企業が受入企業であるため、できるだけ企業に負担をかけないようにする目的で、企業での実習に先立って事前教育を実施した。

事前教育では企業の製造現場における労働安全衛生管理の問題などの基本的な事項(労働安全衛生管理の基本概念、製造現場における安全衛生問題など)を重点課題とし、危険予知訓練も行った。さらに、テーマへの取組方法などについての個別支援も行った。

 

 

 

2.4.4 インターンシップの実施とフォロー

夏休み(8月~9月)を利用した連続2週間(実働10日間)の実施である。実習のテーマは学生からでも企業からでも提案できる方式としたが、企業の希望があれば技術士が相談に乗ることにした。

実習中、学生は企業の従業員と親しく会話を交わし、その中から従業員の信条、人生観などを知ることができ、 テーマへの取組以外にも社会人としての自覚を促される 。また、工場内の設備や作業の説明を受けて観察する中から、これまでに学んだ理論との関わりを見出し、あるいは今後に学ぶ理論との関わりを見出すことにより、学習意欲の向上することが期待できる。したがって、学生にとってテーマの実施もさることながら、この対話と見学が重要であるため、企業にはそのような機会を与えるよう依頼し、技術士も企業に出向いてフォローして、教育効果の確保に努めることとした。


2.4.5 報告会の実施

インターンシップ終了時に、企業内報告会を開催している企業もあるが、講義の一環としてインターンシップ履修学生全員による成果報告会を開催している。この成果報告会には、履修学生、関連教員などの学校関係者、受入企業関係者、および支援技術士が出席する。

報告会では、学生は単にインターンシップの成果を報告するだけでなく、社会人として必要となるプレゼンテーション技術を習得する。すなわち資料のまとめ方、制限時間内で要領よく説明する態度などを学び、評価を受けてインターンシップの履修が終了する。

 

 

2.5 謝辞

兵庫県立大学でのインターンシップ支援活動は、平成19年度で3年目を無事終了した。履修した学生の評判もすこぶる好評であることが、成果報告会などで随所にうかがえる実績であり、成功裏に推移している。

この実績は、インターンシップの趣旨を理解し学生を受け入れていただいた企業ならびにその関係者の努力、履修学生の努力に加え、兵庫県立大学副学長をはじめとする担当教員の皆様が、精力的に活動されたことによるものであり、深く謝意を表する次第です。


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