9)阪神港は現行施設の総点検が必要

著者: 環境研究会 講演者: 環境研究会  /  講演日: 2010年12月02日 /  カテゴリ: 連載記事(フジサンケイビジネスアイ)  /  更新日時: 2012年10月12日

 

フジサンケイビジネスアイ 連載記事

関西を元気に! 

掲載日  2010.12.02

技術士の提言-9

阪神港は現行施設の総点検が必要

2004年、政府は国内主要港の国際競争力の強化策として、東京湾、伊勢湾、大阪湾(神戸港、大阪港)の3港を「スーパー中枢港湾」に指定した。しかし国際的な地位低下に歯止めはきかず、今年8月には「選択と集中」を進めるため「国際コンテナ戦略港湾」として京浜港と阪神港の2港に絞り込んだ。

中国の港湾で取り扱い急増

1970年代後半、世界でも有数の港であった神戸港はいち早くコンテナ埠頭を建設した。その後、アジアの香港、シンガポール、釜山、高雄(台湾)などがコンテナの取り扱いを増加させ、80年の統計では神戸とともに世界のベスト10に入った。
これらの港はコンテナの積み替え基地としての機能を高めつつ、発展し続けた。92年時点で神戸をしのぎ、現在は荷扱い量の拡大が収益を生み出す大規模港湾に成長した。
一方、近年上海や新たな中国港湾の貨物取扱高が急増している。巨大な船会社はアジアと欧州や北米を結ぶ航路の中で、日本を素通りするケース(抜港)が増えている。わが国最大の東京港では、関東地区が主な入出荷地であり、関西の阪神港も同じ構造である。

今年9月、技術士会近畿支部は地域活性化シンポジウムを開催。その中で国内外の港湾の計画・建設にかかわった技術士が3点の問題を提起した。

第1は「競争相手を知れ」だ。釜山港の場合、港湾公社が一元管理し、国内コンテナ貨物の75%を取り扱っている。鉄道と高速道路が整備されており15年にはわが国全体の80%相当の1600万TEU(約6m長のコンテナ換算の個数)規模に拡大し、今後増加が予想される超大型コンテナ船が接岸できると一層物流コスト削減につながる。
取り扱い貨物の44%が積み替え(トランシップ)であり、日本や中国などに小型コンテナ船で輸送する。手続きが簡単で船舶の滞在時間が短く、価格競争力が高い。博多、北九州から釜山港へは、神戸港へのコストの半分程度ですむという。

2点目は「顧客を知れ」である。港にとっての主要顧客である巨大な船会社はメガキャリアと呼ばれ、わが国最大の日本郵船を含む大手3社でさえ世界の第10位以下だ。
船会社はいかに多くの貨物を効率よく運び、収益を確保するか、合理性の追求が経営の根幹である。世界市場の30%近くを占める中国を中心に航路を計画・運行している。

3点目は「分かりやすくせよ」だ。釜山港やシンガポール港は一社が経営しており、30年にわたるマーケティング、収益性の追求、港湾サービスの実績は大きな競争力を持つ。阪神港の場合、港湾整備技術自体は決して劣っていないとしても、大阪港、神戸港の両港には内貿、外貿を含め6つの港湾管理者があり、阪神港全体の計画調整も収益管理も困難であろう。

戦略公開し、地域の合意形成を

日本の国別コンテナ取扱高は中国、米国、シンガポールに続いて世界第4位で4%を占める。日本の港湾は国土開発計画に沿って、費用を投下し、全国に整備されてきた。阪神港についても港湾施設を総点検し、神戸と大阪を一体的に活用する必要がある。
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年にはパナマ運河が改修され、全長366m、幅49m、喫水15m以下の大型船が通行可能になる。港湾機能は水深1517mないと、国際航路から取り残される。

港湾建設・整備及び管理には浚渫を含め膨大な費用がかかる。阪神港は、すでに水深15mの大岸壁を備えている。これ以上の大水深岸壁が必要かについては、メガキャリアの動向調査やコスト削減、サービス向上、積み替え貨物機能の必要性、競合性、収益性など、将来動向を含めて総合的に評価し、長期戦略を公開し地域の合意形成を図るべきだ。

11月にまとめられた神戸市の総合基本計画案によると、阪神港の管理主体を一本化し、民間経営の視点で経営するとある。08年のコンテナ貨物量400万TEUを15年に490万TEUに増やす程度の目標であれば、「国際コンテナ戦略港湾」に位置づけ、重点投資しなくても達成できなければならない。

編集協力/日本技術士会近畿支部環境研究会

>>>次号  10)関西3空港の有効利用を

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