11)広域・長期的なインフラの活用を

著者: 環境研究会 講演者: 環境研究会  /  講演日: 2011年01月06日 /  カテゴリ: 連載記事(フジサンケイビジネスアイ)  /  更新日時: 2012年10月12日

 

フジサンケイビジネスアイ 連載記事

関西を元気に! 

掲載日  2011.01.06

技術士の提言-11

広域・長期的なインフラの有効活用を

失われた20年という厳しい環境の中で、関西の現状と進むべき方向について再点検する。
昨年12月初め、井戸敏三兵庫県知事を連合長とした「関西広域連合」が発足した。広域防災、広域観光・文化振興、広域産業振興など7つの行政課題に取り組んでいく。しかし、本シリーズで具体的な提案をした高速道路、港湾、空港などインフラ整備の課題は取り上げられていない。

関西の活性化は、広域的にとらえながら長期的かつ俯瞰的(ふかんてき)な視点で考え直す必要がある。日本技術土会近畿支部は、インフラを中心に課題と方向を探るため、インターネットなどでの情報に専門的な考察を加えてきた。

たとえば名神高速道路では大津(滋賀県)-高槻(大阪府)間35kmの大部分は建設・整備計画が白紙状態。一方で、都市間をつなぐ日本の大動脈が慢性的な渋滞を引き起こしている。
また、阪神高速道路は250kmが整備されたが未接続部分が多く、ネットワークとしての効率が悪い。計画を峻別して戦略的建設および現有施設の有効活用に方針変更すべきだ。

阪神港は「国際コンテナ戦略港湾」に指定されたが、グローバルな変化の中で釜山(韓国)や上海(中国)との競合よりも現有施設を点検し、効率的な活用が重要。6つの管理主体を統合し、後背地への荷物の入出荷機能を充実させるべきだ。

一方、関西3空港は騒音問題に端を発し、40年に及ぶ時間と膨大な費用を投じてできた。国内航空は利便性の高い大阪国際(伊丹)空港を中心に、国際航空は今後増大する旅客、貨物輸送の需要への、24時間利用可能な関空の優位性を生かすことが重要である。

 

 求められる地域住民の支持

阪神高速道路の延長距離は首都高速道路の80%に相当し、そのインフラは大きなストック。どう活用するかは重要だ。現実を把握し、広域的、長期的な視点で地域全体の合意形成を図っていくべきである。最適解(ペストプラクティス)を求めるのではなく、いかに有効活用するかが重要だ。

明石海峡大橋ではフェリー会社が撤退したが、フェリー会社支援のため、本州四国間の通行料金を通常の高速道路より高くする案はおかしい。合意形成では、経済性、競合性、時間とスピードが重要になる。行政関係者だけでなく、地域住民などの支持を獲得しなければ、諦めと無関心が続き、議論が収斂しない。直接の利害関係者の反対の声に振り回されて、費用と時間を浪費する。

中部国際空港の建設費用は、関西国際空港の3分の1程度だった。第二京阪道路が40年かかって30kmの建設に1兆円を要したことからも、合意形成、事業見直しが適切だったか疑問が残る。

シンクタンクの育成が必要

社会学者の芹沢一也氏は、「理念」と「専門知識」が重要である一方で、行政を含めシンクタンクが日本に根付く気配はないと指摘する。関西などの地域は、経済収縮の中で行政、産業界を含め冗長性(一種のゆとり)がなくなり、シンクタンクが行う調査の予算も出てこないという。

関西活性化に向けての広域長期ビジョンづくりにも弱点が2つある。「関西はひとつひとつ」といわれるように府県、政令市などの計画を統合し、優先順位を明確にする計画づくりが行われていない。「関西広域連合」でも優先すべき高速道路などのインフラをどうするか取り上げていない。
長い間に培われた頭脳、現場での経験を統合して、実現可能な具体的な実施計画とその推進である。

技術士が良質で安価なシンクタンク機能を担う可能性があることを述べたが、技術土会内部ではそのような機運は生まれてこない。今ある資源の有効活用を図り、シンクタンクを本気で育てる必要がある。

編集協力/日本技術士会近幾支部環境研究会

>>>次号  12)メガトレンドに適応し、関西の自立復興を

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